プロセス指向心理療法のワーク

アーノルド・ミンデルのプロセス指向心理学」に続くページです。

このページでは、プロセス指向心理療法の様々なワーク(プロセス・ワーク)について、簡単に紹介します。


<ワークと自覚>

ミンデルは、プロセス指向心理療法の手法には「自覚」だけしかないと書いています。
ですが、「自覚」にも様々な種類があります。

ミンデルが、「漂うようなリラックスした自覚」と表現する自覚は、仏教の「観(ヴィパッサナー)」に対応します。
そして、「焦点が合っていて正確な自覚」と表現する自覚は、「止(サマタ)」に対応します。

他にも、ミンデルは、「自覚していることの自覚」、相手(二次プロセス)の立場からの自覚も持つ「複眼的自覚」などをあげています。

ミンデルは、著作「24時間の明晰夢」で、夜の夢見の時にも覚醒時にも「センシェント」な自覚を保ち続けることを「24時間の明晰夢」と表現して、それを目指すことを主張しました。

ミンデルは、この「24時間の明晰夢」を、チベット仏教の「大いなる覚醒」、「仏心」とつながること、ヒンドゥー教の「サハジャ・サマディ」、タオイズムの「無為」であるとも書いています。

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プロセス指向心理療法の手法には「自覚」だけしかないとは言っても、具体的には、様々な対象と方法があります。

ワークの基本的な方法は、特定の対象を選んで、それを十分に感じること、そして、それらになったり、それらの立場から考えたり、それらを擬人化してコミュニケーションをとって、その正体や希望などを尋ねたりすることです。
あるいは、それをイメージや動作などの様々なチャンネルで表現したり、物語として展開したりします。
もちろん、これらは、半覚醒・半夢見の意識の状態で行います。


また、日常生活の意識に戻って、以上の体験がどのように役立たせることができるかを考えます。

プロセス指向心理学のワークは「プロセス・ワーク」と総称されますが、その対象や方法によって、様々な名称が存在します。

以下、「ワーク」の種類をあげて、簡単に説明します。


<ドリームボディ・ワーク>

一人で内面を対象にして行うワークは、「インナー・ワーク」と総称されます。
これには、以下のような様々なワークがあります。

夢のイメージや身体症状を対象にしたものは、「ドリーム・ワーク(ドリームボディ・ワーク)」です。
夜見た夢の続きを見たり、登場人物や気になるものを対象にして展開したりします。
身体の症状、痛みや慢性症状も「ドリームボディ」の表現と考えて、それを対象とします。

「嗜癖」も同様です。
「嗜癖」には、自己のアイデンティティを支えるものと、アイデンティティと対立する部分を支えるものがあります。

「ドリーム・ワーク」を二人で行うことは、「共に作り出すドリーミング」と呼びます。
これは、解釈者と一緒に夢見し、解釈するワークです。


<センシェント・ワーク>

「ドリーミング」の次元にある漠然とした「センシェント(微細)」な感覚、意味の「エッセンス」(種)を対象にするワークは、「センシェント・ワーク」と呼ばれます。
これは、ユージン・ジェンドリングの「フォーカシング」とほぼ同じです。
この「センシェント・ワーク」は、一種の変性意識的状態が求められます。

「センシェント・ワーク」では、直接「エッセンス」を見つけてそれを感じることもあれば、夢のイメージなどからその「エッセンス」へ遡ることもあります。
そして、次には、それを「展開」させます。
つまり、イメージや言葉にしたり、擬人化して会話したりするのです。


<フラート・ワーク>

プロセス指向心理学では、「ドリーミング」、「ドリームランド」、「合意的現実」の3つのリアリティ間に存在するものがあって、これらを対象とするワークも行います。

「ドリーミング」と「ドリームランド」の間にあるとされるのは、「フラート(フラッシュ・フラート)」で、これを対象とするのは「フラート・ワーク」です。

「フラート(魅惑するもの)」は、ふっと瞬間的に魅力を感じるもの、一瞬、心をよぎるものです。
あるいは、視覚で言えば、周りを見渡して、目を引くもの、なぜが気になって魅力を感じるものです。
ミンデルは、「フラート」がはっきりしない願い事に対する返答だとも書いています。

「フラート・ワーク」でも、まず、「フラート」の「エッセンス」を感じて、その後、展開します。


<秘密のドリーム・ワーク>

一方、「合意的現実」と「ドリームランド」の間に存在するものは、「ドリームドア」です。
これは「ドリームランド」への入口です。
これを対象とするのは「ドリームドア・ワーク」、あるいは、「秘密のドリーム・ワーク」です。

「ドリームドア」は、視覚的には、周りを見渡して、継続的に注意を引いて離さないものです。
会話の中では、今、ここ、私でない誰かとして語られるもの、繰り返し力説する話題だったりします。
他にも、不完全な文章、混ざる外国語、繰り返される言葉、思い出せない言葉、誇張されるもの、良く浮かぶメロディなども、「ドリームドア」かもしれません。

「ドリームドア」を対象にすると、夜に夢を見ない人でも、あるいは、夜に見た夢を対象としないでも、「ドリームランド」に入っていくことができます。

「ドリームドア」のワークもそうですが、日常生活を夢と捉えて、そのどこかに焦点を当てていくワークを、「秘密のドリーム・ワーク」と呼びます。
人間関係を夢と捉えたり、過去の記憶を夢と捉えたりして、それらとワークすることができます。


<人間関係のワーク>

一人で内面に向かう「インナー・ワーク」に対して、人間関係を対象とするワークは「人間関係のワーク」と総称されます。

「人間関係のワーク」で重視され、対象とされるのは、転移、投影、逆投影、「ランク(権力)」、「ドリーミング・アップ」、「シグナル」、「エッジ」、「ビッグ・ドリーム」、「センシェントなもつれ」、など数多くあります。

「ドリーミング・アップ」は、ある人の夢や無意識的な行為が、相手を刺激して感情を作るという作用です。

「シグナル」は、人が会話でコミュニケーションしている時に、本人が意図せずに、会話の内容と違うメッセージを、言い方や表情、動作などを通して送っていることがあります。
これを「ダブル・シグナル」と表現します。
こういった「身体シグナル」も、人間関係の中で表現される「夢」と言えます。
シグナルを対象としたワークは、「シグナル・ワーク」と呼びます。

また、「ドリームボディ・ワーク」の対象だった「嗜癖」も、コミュニティと結びついていることが多いため、コミュニティを対象とした「コミュニティ・ワーク」が必要になることがあります。

人間関係にも「エッジ」があって、特定の人間に対して、何らかの感情から自分を制限している壁です。
「エッジ」を対象とするワークは「エッジ・ワーク」と呼ばれます。

ある人との長期的な関係を、最初の大きな体験の記憶や夢が規定する場合、その体験や夢を「ビッグ・ドリーム」と呼びます。
ミンデルは、それを一種の神話であると言います。

「センシェントなもつれ」とは、人間関係の中で、特定の誰かに属するような形のはっきりしたものではなく、関係の中に微細な雰囲気として存在するものです。
これを対象にするワークは、相手の体に触れていき、ある場所に何か感じたら、それに集中する方法で行います。


<コーマ・ワーク>

「コーマ・ワーク」は、昏睡状態の人とコミュニケーションを行うワークです。
おそらく、これはミンデルによる人類史上初の画期的な発見ではないでしょうか。

昏睡状態の人にも、思考やコミュニケーション能力があって、皮膚感覚による合図、眼球の動き、うなり声、呼吸のリズムなどを通して、長時間をかけてコミュニケーションを行うのです。

ミンデルは、昏睡状態を、選択された必要な一つの「プロセス」として受け止め、「コーマ・ワーク」によって「プロセス」を進展させることをサポートします。

ミンデルは、たくさんの実証を行いました。
そして、そのコミュニケーションを通して、昏睡状態の人が、自分が夢見の状態にあることを自覚し、その夢見を進行させることで、人格を統合・成長させました。
その結果、患者は、奇跡的に覚醒したり、あるいは、人生を完成させて死ぬことを決意したりしました。


<ワールド・ワーク>

「ワールド・ワーク」は、世界的に普遍的なテーマ(人種や男女の差別など)を取り上げて行う一種のグループをセラピーです。
グループをセラピー対象の個人と同様に捉えるのが特徴です。

個人のセラピーでは、「一次プロセス」、「二次プロセス」、「エッジ」を意識して、最終的に「ドリーミング」の観点に立ちます。
同様に、グループ対話では、主流派と非主流派、あるいは、発言されない意見(ゴースト・ロール)、話が進まなくなる「エッジ」などを意識しながら、「場」としての癒しのプロセスを進行させます。

この時、主流派と非主流派を同等に扱うことを「ディープ・デモクラシー」と呼びます。


<道の自覚・ジグザグ歩きのワーク>

ミンデルは、著作「大地の心理学」で、プロセス指向心理学の思想を、あらためて量子力学やシャーマニズム、タオイズムと重ねて解説しながら、「道の自覚(パス・アウェアネス)」や「大地の導き」、「ジグザグ歩き」といった新しい考え方、新しいワークを提唱しました。

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ミンデルは、次のように書いています。

「「大きな自己」は、平行世界の多様性を通して自らを知ろうとする重ね合わせの知性と言える。私はこの知性に参加する活動を「ジグザグ歩き」あるいは「プロセスの知恵」と呼ぶ」

つまり、簡単に言えば、多様性(平行世界)を重ね合わせることで、「大きな自己」が進もうとする方向が分かる、ということです。

以下、ミンデルが量子力学をどのように比喩的に扱いながら、「道の自覚」を説いているかについてまとめます。

まず、量子力学のおける「場(量子場)」と「粒子(量子)」の関係を、「センシェント」な領域の「大きな自己」と、それが展開した「ドリームランド」、「合意的現実」の領域の様々な人格などに喩えます。

ミンデルは、「大きな自己」が波動関数であると書きます。
そして、「粒子」を自己(一次プロセス)、「反粒子」を夢の登場人物(二次プロセス)に喩えます。

そして、「センシェント」な領域は、非時間的かつ非局所的で、観念と出来事がもつれている、つまり、「量子もつれ(エンタングルメント)」の状態にあると喩えます。
「量子もつれ(エンタングルメント)」の状態は、人間が「一次プロセス」では分離しているように見えても、「二次プロセス」ではつながっていることにも喩えます。

また、ミンデルは、一つの「大きな自己」が、多様に展開したそれぞれを、量子力学の多世界解釈の「平行世界」で喩えます。
そして、「大きな自己」が最終的に進む方向を、それらの「重ね合わせ」、「最小作用」と喩えます。

つまり、「プロセス」の進展する方向は、多様性の「重ね合わせ」として存在するのです。
そして、この方向は、量子力学でファインマンが言う「最小作用」の方向であると喩えられます。

この方向性を理解することは、「道の自覚(パス・アウェアネス)」とも表現され、私たちに本来備わっている「方向性を感じ取る能力」によって可能なのです。
ミンデルは、「センシェント」な領域での方向性の感覚を「クオンタム・コンパス」と表現します。
そして、この方向に進むことは、「タオ」に従う「無為」であり、ドン・ファンがいう「心ある道」でもあり、「大地の導き」に従うことなのです。

確かに、量子力学では、観測以前の量子の相互作用の状態は、収束しない波動関数を「重ね合わせ」て計算しますし、量子の最も確率の高い進路は、ファインマンの経路積分の「最小作用」の方向となります。

ですが、多世界解釈での「平行世界」というのは、観測されて波動関数が収束した場合に、観測以前にあった可能性の世界(歴史)が分離したと解釈するのであって、それらを「重ね合わせ」ることはありません。
ですから、ミンデルの喩えには問題があるのではないでしょうか。

また、ミンデルは、現実の人間における多様性を現わす進展は、同時ではなく順番に起こるため、これをファインマン・ダイアグラムに喩えて「ジグザグ歩き」と表現します。

以上の理論を背景にした「道の自覚」、「ジグザグ歩き」のワークの方法は、まず、複数の要素の「重ね合わせ」を考えることです。
そして、それぞれの方向性を、実際に地面(床)に直観的に見定めて、実際にその「ジグザクを歩き」、また、それらを足し合わせた方向を理解して、それに「大きな自己」を感じます。

複数の要素とは、例えば、日常の自己/非日常の自己/現在の問題症状/薬、などです。
あるいは、特定の人間との関係性/その人間との最初の体験/これから生起すると思い浮かんだいくつかの出来事、などです。
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アーノルド・ミンデルのプロセス指向心理学

アーノルド・ミンデルが発展させたプロセス指向心理療法は、彼の独創的なアイディアによって、心理療法を新しい次元へ、多方向へ、統合的に拡張したものです。
また、それは、ネオ・シャーマニズムやトランス・パーソナル心理学と方向性を共有し、それらを包含しています。

ミンデルは、シャーマニズムやタオイズム、量子力学などの影響を受けています。
ミンデルの言う「プロセス」とは、その本質において「タオ」であり、波動関数であり、シャーマンが変性意識状態の身体で体験するリアリティでもあります。

プロセス指向心理学は、イメージや言語以前の微細なリアリティに対する直観を、24時間ずっと自覚し続けることを目指します。
ミンデルはそれを「24時間の明晰夢」と表現しますが、それがチベット仏教の「大いなる覚醒」、ヒンドゥー教の「サハジャ・サマディ」、タオイズムの「無為」であるとも書いています。

また、神秘主義思想が上昇道(往相)だけでなく下降道(還相)を説くように、意味の「エッセンス」へ遡るだけでなく、それを展開することも説きます。

このページでは、ミンデルとそのプロセス指向心理学の思想についてまとめます。
そして、次のページには、プロセス指向心理療法のワークについて扱います。

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<ミンデルの歩み>

アーノルド・ミンデルは、1940年にニューヨークで生まれ、マサチューセッツ工科大学で応用物理学を学びました。

ですが、心理学への転向を志し、スイスのチューリッヒにあるユング研究所で分析心理学を学びました。
そして、1970年には、オハイオ州のユニオン大学院で博士課程修了し、その後は、ユング心理学研究所で分析家として活動しました。

ですが、ミンデルは、身体症状などを夢と同一のものとして捉え、それが自我を相対化する知恵であると考えるようになりました。
ミンデルは、これを「ドリームボディ」と名付けました。

そして、1980年代初頭に、同僚と共にプロセス指向心理学のワークを始めました。
1982年には、「プロセス・ワーク・インスティテュート(IPA)」を設立し、「ドリームボディ(原題:Dream Body: Body's Role in Revealing the Self)」を出版しました。

1985年、ミンデルは、ユング心理学研究所を退所しました。
また、「プロセス指向心理学(原題:River’s way: the process science of the dreambody)」、「ドリームボディ・ワーク(原題:Working with the dreaming body)」を続けて出版しました。

1980年代後半には、妻のエイミーとアメリカに戻り、1990年、オレゴン州ポートランドに、「プロセス・ワーク研究所」を設立しました。

その後も、ミンデルは、次々と新しい観点、新しいワークを生み出し、自身の心理療法を進化させ、著作も次々と出版し続けました。
以下に紹介するのは、その一部です。

1989年、「昏睡状態の人と対話する」を出版し、昏睡状態の人とコミュニケーションを行う「コーマ・ワーク」を提唱しました。

1993年、「シャーマンズボディ」を出版し、カスタネダを含むシャーマニズムの思想とプロセス指向心理学を統合しながら、「ドリームボディ」を環境内の存在としての「シャーマンズボディ」に拡張しました。

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1995年、「紛争の心理学(原題:Sitting in the fire)」を出版し、普遍的で対立的なテーマで対話を行うグループ・ワークである「ワールド・ワーク」を提唱しました。

2000年、「24時間の明晰夢(原題:Dreaming while awake)」を出版し、イメージ以前の微細な(センシェント)直観的な次元の気づきを常態化する「24時間の明晰夢」を提唱しました。

2001年、プロセス指向心理学を体系的した「プロセス指向のドリーム・ワーク(原題:The dreammaker’s apprentice)」を出版しました。

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2007年、プロセス指向心理学を、量子力学、タオイズム、シャーマニズムと統合して「道の自覚」をテーマとする「大地の心理学(原題:Earth-Based Psychology)」を出版しました。


<プロセス指向心理学・心理療法の特徴>

プロセス指向心理療法は多様で、様々な側面を持っています。
例えば、カール・ロジャーズのクライアント中心療法や、フリッツ・パールズのゲシュタルト療法、ジェンドリンのフォーカシング、ボディ・ワークなど、様々なものと似ていると言われます。
ですが、ミンデルは、スイスにいた時は孤立していて、アメリカのエサレン研究所でワークを行った時に、初めて他のワークを知ったと言います。

また、ミンデルは、ユング派から出発していますが、あまりユングの影響を感じさせません。

プロセス指向心理療法は、ユングの能動的想像力を、身体性へ、環境へ、そして、イメージ以前の直観へと拡張したものという側面があります。
それに、ミンデルの言う「大きな自己」は、ユングの「本来的自己」に似ています。

ですが、ミンデルは、「元型」は存在せず、それは単なる一時的な「エネルギーのパターン」、「変化する傾向」にすぎないと書いていて、「元型」をほとんど重視しません。

スタニスラフ・グロフは、ミンデルをトランス・パーソナル心理学の先駆者として評価しています。
ですが、プロセス指向心理学は、思想的にも、療法的にも、他のトランス・パーソナルな心理療法より豊かで、地に足がついている印象があります。

ミンデルは次のように書いて、ユングやトランス・パーソナル心理学との違いを主張しています。

「プロセス・ワークは人格問題を持たず、高次あるいは低次といった意識状態を設定していません。また、類型論もなければ、理想とする固有の状態もありません。」(うしろ向きに馬に乗る)


<プロセス>

ミンデルは、環境とつながった心身が、全体として変化する体験の流れを、「プロセス」と呼びます。

これは、ジェンドリンが「体験過程」と呼んだものとほぼ同じです。
ミンデルは、それを「タオ」とか「大河の流れ」とも表現するように、それが人間を越えた環境内の存在であることを強調します。

ミンデルは、2つの「プロセス」を区別します。
自分が同一化している「一次プロセス」と、排除して周縁化された「二次プロセス」です。
そして、2つのプロセスを隔てる壁を「エッジ」と呼びます
フロイトの「一次過程」、「二次過程」、「防衛機能(抑圧)」とほぼ同じですが。

プロセス指向心理療法のワークでは、「二次プロセス」を感じ、それになったり、それとコミュニケーションをとったりします。

「二次プロセス」になかなかアクセスできない場合は、「エッジ」を対象にして、同様のワーク行います。
「エッジ」を橋とイメージしてそれを渡ることを想像したり、「エッジ」を擬人化してコミュニケーションしたりするのです。
「エッジ」を渡る時に、人は変性意識状態になります。

このように、自己が同一化する対象を変える「布置の変化」がワークの特徴です。

「二次プロセス」は「一次プロセス」と対立する、反対のものであることもあるので、それに合わせて、価値観を逆転させることが必要となります。
彼の著作のタイトルにもなっている「うしろ向きに馬に乗る」は、それを表現しています。

「二次プロセス」とワークすることは、「一次プロセス」を相対化し、両者を統合することになります。
逆に言えば、「二次プロセス」として現れるものは、「一次プロセス」を中心にして生きることを批判し、修正を促すものなのです。
後述するように、たとえそれが病気のような身体症状であっても、一種の知性であると受け止めます。


<リアリティの3階層>

プロセス指向心理学では、3つの意識、3つのリアリティの階層を考えます。

・合意的現実  :覚醒時の合理的現実、一次プロセス
・ドリームランド:ドリームボディ、二次プロセス中心
・ドリーミング :センシェント、エッセンス

「合意的現実(コンセンサス・リアリティ)」は、日常的現実であり、それに対応するのは、覚醒時の合理的意識です。

合理的意識は言語的で、「二元的」な対立の世界であり、排除や権力が存在します。

「ドリームランド」は、「夢」のリアリティですが、プロセス指向心理学では、夜の夢の中だけではなく、覚醒時にも常に存在して、身体症状などとして現れると考えます。
そして、この「夢」=「身体」的存在を「ドリームボディ」と呼びます。

「ドリームランド」には、「二元的対立」ではなく、「二極の交流」があります。

「ドリーミング」は、言葉やイメージの種となる「センシェント(微細な)」な意味の「エッセンス」の世界であり、その意識です。
ジェンドリンが、「フェルトセンス(感じ取られた意味)」と表現したものとほぼ同じです。
「センシェント」な意識は瞑想的な意識、変性的意識です。

この意識・リアリティは、覚醒時も含めて、一日中、常に存在しています。
身体としては、インド神智学の概念である「サトル・ボディ」が対応します。

この世界は、「非二元的」な一つの存在です。

「ドリーミング」という名称は、アボリジニーの「ドリーム・タイム」の影響を受けています。
「夢の創り手(ドリームメイカー)」とか、「大きな自己」とも呼ばれます。

ちなみに、ミンデルは、アビダルマ仏教の心路過程の論理の17段階を、「ドリーミング→ドリームランド→合意的現実」の3段階の移行に当てはめて考えています。
ですが、ミンデルは理解していないようですが、ミンデルの3層は、密教の「法身→報身→応身」、「睡眠意識→夢意識→覚醒意識」に対応します。

それに、心身の止滅を目指すアビダルマよりも、心身の活性化を目指す密教の方が、プロセス指向心理学の理論や思想と親近性があります。

また、ミンデルは、第4のレベルとして、自覚的な「プロセス」を考えます。
これは、3つのレベルの間を移動する自覚的意識です。

「ドリーミング」を対象としたワークでは、直接「エッセンス」を見つけてそれを感じることもあれば、夢のイメージなどからその「エッセンス」へ遡ることもあります。
そして、次に、それを「展開」して、イメージや言葉にしたり、擬人化して会話したりするのです。

「ドリーミング」の次元は、「一次プロセス」、「二次プロセス」の分離以前の次元です。
ですから、この次元を含むワークでは、「一次プロセス」によって「二次プロセス」を統合するとか、「二次プロセス」によって「一次プロセス」を相対化したりするとは考えません。
「夢の創り手」である「大きな自己」となって、その観点から全体を見て、「プロセス」を進展させることを促します。


<チャンネル>

「ドリーミング」の次元にある意味の「エッセンス」は、「ドリームランド」の次元で、夢や身体症状などとして表現されますが、それが表現される媒体的な領域を「チャンネル」と呼びます。

以下のように、基本的に8つの「チャンネル」があるとされます。
感覚の4チャンネル、身体の2チャンネル、環境の2チャンネルです。

・視覚(夢)
・聴覚
・味覚
・臭覚
・身体感覚(身体症状:痛み、慢性症状…)
・動作(無自覚な動き、ダンスのパタン…)
・人間関係
・世界(3者以上の関係)

チャンネルとは言われまんが、「嗜癖(依存症)」も重視されます。

プロセス指向心理療法では、これらの「チャンネル」や、その移動を重視して意識します。


<シャーマンズボディ>

ミンデルは、著書「シャーマンズボディ」で、プロセス指向心理学にシャーマニズムの思想や技法を取り入れる一方、シャーマニズム、特に、カルロス・カスタネダの思想をプロセス指向心理学の立場から解釈しています。

まず、ミンデルがシャーマニズムの特徴とするのは、プロセス指向心理学が「ドリームボディ」と呼んだ「夢=身体」が、周囲の世界と密接に結びついていると考える点です。
そして、この周囲の世界、部族の希望と結びついた身体を、「シャーマンズボディ」と呼びました。
この「シャーマンズボディ」は、「ドリームボディ」よりも、強く変性意識状態と結びついています。

ミンデルは、シャーマニズムが、自然を含めた周囲の世界が、夢見られているものであり、また、一種の知性であると考えていると理解し、次のように書いています。

「アボリジニーの考え方によれば、…精霊たちは生きていて、今ここで起こっている出来事を夢見ていると考えられているのである」
「シャーマニズムは、周囲の世界が独自の知性を持ち、それもまたあなたの一部であるということを想起させてくれる」

ミンデルは、カスタネダの言う「第二の注意力」を、自我が締め出すものへの集中力、思いがけないプロセスに対する注意力、夢見の世界への鍵であると言います。

そして、カスタネダの言う「盟友」は、「二次プロセス」に対応する存在を、敵対的に受け止めない姿だと解釈し、次のように書きます。

「対立的な局面を克服すべき敵とは考えず、自分にとって最も力強い盟友となる潜在的な可能性を持つものとして理解する」

ですから、ミンデルは、「盟友」と自己を統合するべきもとだと考えます。

「自分が盟友に、盟友が自分に似てくることは、あなたが以前より統合され、自己の全体性を生き始めたことを示している」

ですが、「二次プロセス」を敵対的に考えないプロセス指向心理学の考え方は、カスタネダのトルテックよりも、サージ・カヒリ・キングのフナに近いように思います。

また、ミンデルは、カスタネダ(ドン・ファン)が言う「心ある道」を、「ドリーミング」に従う道であると解釈します。

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*「プロセス指向心理療法のワーク」に続きます。
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ユージン・ジェンドリンのフォーカシング

ユージン・ジェンドリン(1926-2017)は、アメリカの哲学者、臨床心理学者で、「体験過程理論」、そして、「フォーカシング」技法の提唱者です。

ジェンドリンは、直接的には神秘主義と関係がありませんが、彼は、日常的意識と変性意識の間で、言葉にできない、漠然と感じられる意味を意識することで、成長や癒しが促されると主張しました。

これは、従来の心理学・心理療法にも、哲学にも、神秘思想にもなかった革命的な観点です。


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<ジェンドリンの歩みと思想>

ジェンドリンは、オーストリアに生まれて、シカゴ大学で哲学を学び、カール・ロジャーズのもとでカウンセリングを学びました。
彼は、哲学的視点を心理学にもたらし、革命的な理論・技法を提唱しました。

ジェンドリンは、1958年に博士号を取得し、1961年にウィスコンシン大学精神医学研究所所員になりました。
そして、1968年から1995年までシカゴ大学で教鞭をとりました。

ジェンドリンは、カウンセリングの成功例の分析から、クライアントが、自分の言葉にできない漠然とした意味感覚(フェルト・センス)を意識できるかどうかが鍵になることを発見しました。

1962年に出版されたジェンドリンの最初の著作は、哲学書の「体験と意味の創造」です。
続いてこの年に発表された「体験過程の理論」で、彼の思想の基本となる「体験過程」の概念を提唱しました。
1964年の「人格変化の一理論」では、「体験過程」の理論を深め、「体験過程」を自覚する手法としての「フォーカシング」につても位置づけました。

その後も、1973年に「体験過程療法」、1978年に「フォーカシング」、1986年に「夢とフォーカシング」、1996年に「フォーカシング指向心理療法」などを出版しました。

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ジェンドリンは、人間が生きることは、環境との複雑で秩序だった相互作用が変化・成長していくプロセスであり、それは言葉を越えた一種の「知識」であると考えました。
そして、彼は、それを「体験過程(experiencing)」と名付けました。

ジェンドリンは、自身の哲学や心理学の先駆者として、実存主義や現象学、実存主義的心理学をあげます。
そして、彼は、「体験過程哲学は、実存主義の哲学者たちがやり残したところ、つまり、象徴、思考、言語や他の象徴がどのように、具体的な体験過程に基づき、関連しているか、というところから始まる。筆者は気持ちと思考の関係について哲学的システムを開発した」(「体験過程療法」)と書いています。

「体験過程」のほとんどは言語化を伴わない無意識の過程ですが、それは意識化すること(フォーカシング)によって進展し、人格の変容、成長が起こります。

ジェンドリンは、「体験過程」を意識化してそれを進める心理療法を、「体験過程療法」、「フォーカシング指向心理療法(FOP)」と名付けました。


<フォーカシングの革命性>

「体験過程」を焦点化して意識化する「フォーカシング」の対象は、「感じられた意味(felt sense」と呼ばれる、言葉にもイメージもなっていない、漠然とした感覚、身体感覚を伴った意味のある感じ、です。

フロイドの精神分析学以来、心理学、心理療法の世界では、意識や認識の対象となるのは、言葉やイメージのような「表象」、あるいは、はっきりとまとまった感情のみです。
「フェルト・センス」のような言葉やイメージになっていないものは意識できないと考えてきました。

しかし、ジェンドリンは、意識と無意識の境界で「フェルト・センス」を体験することが、治療の本質であり、それが解放と自由をもたらすと考えたのです。
これは、心理学、心理療法における革命であり、その背景には、彼自身の哲学があります。

「フェルト・センス」は「暗に含まれたもの(implict)」の状態ですが、「フォーカシング」によって進展させた時、「開け(unfolding)」の状態になると、ジェンドリンは書きます。
つまり、意味が「含み込まれた」状態から、「開かれた」状態になるということです。
そのため、ジェンドリンの思想は「暗在性哲学」と表現されます。

これらの表現は、現代哲学のドゥルーズが使った「巻き込み(implication)/繰り広げ(explication)」や、ニュー・サイエンスのデヴィッド・ボームが使った「内蔵秩序(implicate order)/表出秩序(explicate order)」という言葉と、それらの思想と近いものでしょう。
ただし、ジェンドリンの「開け(unfolding)」の状態は、まだ、言語以前の「フェルト・センス」ですが。

「フェルト・センス」は、「直観」とか、「強度」とか「内包量」と呼ばれるものに近いでしょう。
この点で、ジェンドリンの思想は、神秘主義的でもあり、現代思想的でもあります。
また、「フェルト・センス」を一種の「力」と捉え、それがイメージや物語に展開できるという観点からすれば、シャーマニズム的でもあります。

ジェンドリンは、「フェルト・センスは通常の状態と変性意識状態との境目で起こる」と書いています。
そして、「フェルト・センスは、そこ(深い瞑想)まで深く降りてしまわない途中の階にある」(以上「フォーカシング指向心理学」)のだと。


「フォーカシング」は、何らかの事項、問題、塊の「縁(edge)」にある「フェルト・センス」に集中して、それを受容的に体験し、あるいは対話することで、「人格の変容」を導く技術です。
そのため「縁で考える」とも表現されます。

「フェルト・センス」の中には、「有機体が知っているすべてが含まれている」だけでなく、「その中には有機体が動いていく方向、次の成長のステップの鍵がある」(以上、「夢とフォーカシング」)のです。
つまり、まだ新しいステップが形をなしていないのに、その全体的な感じがあって、自然にできてしまうのです。

ジェンドリンは、無意識も、「フェルト・センス」も、「未完了」な過程だと言います。

「フォーカシング」によってそれを意識化すると、「体験過程」の進展があります。
ジェンドリンは、それを、「フェルト・シフト」、「体験的ステップ」と表現します。
これによって、「ものごとの全体の布置が変化する」のです。

そして、「フェルト・センス」は、それを言語化、明示化されることで「完了」します。

ゲシュタルト療法で使われる「完了」、「未完了」という考え方と、似ています。


<フォーカシングの4つの位相>

「人格変化の一理論」では、「フォーカシング」に4つの位相があると書いています。

1:直接の照合体(referent)

「フェルト・センス」に焦点を当てて意識化すること、つまり、「フォーカシング」そのものです。

2:開け(unfolding)

「フェルト・センス」が不安感や嫌悪感を伴うものであったとしても、自覚化するにつれて、それは薄らいでいきます。
そして、「フェルト・センス」が何であるかが徐々に知るようになり、ある瞬間に「ぱっと開く」ことがあります。

3:全面的な適用

すると、「フェルト・センス」に、すべての関連のある様々な連想や記憶状況や環境が一度に結びつきます。

4:照合体の移動

今まで集中していた「フェルト・センス」が違ったものになり、最初の位相に戻ります。


<フォーカシングの技法の6ステップ>

ジェンドリンは、その後、技法としての「フォーカシング」を、準備のステップと6つのステップで考えるようになりました。

0(準備):内側を感じる

1-2分ほど、体の内側、例えば、胸や胃の内側を感じてみます。

1:間を置く

何か問題のあるものとして内側に感じたものに、受容的な態度で、挨拶するように向かい合います。
そして、そのいくつかの感覚と自分との間をどれくらいの距離を置けばいいかを決めます。
そして、その中から1つを選びます。

2:フェルト・センスをつかむ

選んだ気がかりなことの「縁」にある「フェルト・センス」を見つけます。

3:ハンドルをつける

その感じを表すような名前をつけたり、イメージを与えたりします。

4:共鳴させる

その名前が合っているか確認します。
名前を与えて楽になった感じがすると、それで合っています。

5:問いかける

「フェルト・センス」にそれが何なのか、何が問題なのか、どう解決するのか、などを問いかけて、反応を待ちます。

6:受け取る

「フェルト・センス」が何かの反応、例えば、ざわめくような変化があれば、それをそのまま受け止めます。
ですが、それは答えではなく、一歩でしかありません。


ちなみに、ジェンドリンの弟子のアン・ワイザー・コーネルは、「フォーカシング」の方法を、一般の人がより使いやすいように改良しました。
これについては、姉妹サイトの記事をご参照ください。

コーネルのフォーカシング


<夢のフォーカシングの4ステップ>

ユージン・ジェンドリンは、夢をきっかけにした「フォーカシング」も薦めています。
 
彼は、夢は「体験過程」の表現であり、夢の中には「フェルト・センス」が含まれていると考えます。
夢の枠組み自体は、現在の布置を表しているのですが、その中にある「フェルト・センス」は「変化の芽生え」なのです。
 
夢の中の「フェルト・センス」に「フォーカシング」を行うと、徐々に人格が変容し、それに伴って、見る夢も少しずつ変わっていきます。

ジェンドリンは著「夢とフォーカシング」で、夢の変化に3つのステップがあると書いています。
ですが、そこに、彼が「統合」と呼ぶ段階を加えて4つのステップで考えることもできます。

1:気づき
 
まず、夢の中にある「フェルト・センス」を見つけます。
夢を思い出して、気になる感じ、気になる登場人物に注目します。

ジェンドリンによれば、夢は新しいものを表現しているので、現在の自分の価値観から解釈すると必ず間違います。
「フェルト・センス」を体験して自分が変わって初めて、夢を理解することができます。
 
2:新しいものを得る
 
夢のイメージは何度も繰り返して「フェルト・シフト」をもたらしてくれます。

ですから、「フォーカシング」を行っていると「開け」を感じても、さらに「体験過程」を進めてくれる部分を探して「フォーカシング」を続けます。

夢の中では、最初、新しいものは、悪いものとして現れます。
ですから、自分が好ましくないと思っている存在や行動に「フォーカシング」することが重要です。
あるいは、常識的な考えて、最も奇妙で馬鹿げていると思える部分が重要だったりします。

ですから、夢を解釈する場合も、価値観を反対にすることが必要になります。
ジェンドリンはこの逆転の方法を、「バイアスコントロール」を呼びます。
夢の解釈が正しいと、しっくりした感じ、何か開けたような感じがします。

3:成長
 
なかなか前に進めない時は、その「妨げ」、「できない」こと、「進みたくない」、「フォーカシングしたくない」、という気持ちに「フォーカシング」するのも方法です。
 
ジェンドリンは、夢では成長のステップはあまり表現されず、むしろ、どのように物事が行き詰まっているのかを描く、と書いています。
成長した後に、事後的に、夢はステップを歩んだことを示すのです。
 
成長の前には、新しいものは、否定的なもの、人間に遠いもの、動物や虫として現れる傾向があります。
また、それが何を象徴しているのか、理解しにくいものであることが多いようです。

しかし、新しいものを受容し、成長した後では、それが変化します。
否定的なものは肯定的なものに、人間から遠いものは人間に、分かり難い象徴は分かりやすい象徴に変化します。
分かりやすい例では、童話でガマガエルが王子様に変わるようなものでしょう。
 
他にも、分かりやすい成長の例としては、できなかったことができるようになる、誰かから何かをもらう、誰かから褒めてもう、敵対していた人と友好的になるなどがあります。

4:統合
 
夢にステップが現れたとしても、それで終わりではありません。
そのステップを表現するものを対象にした「フォーカシング」が必要です。
それによって、体を通した全体的な機能を伴った成長を得ることができるからです。
 
つまり、夢の意識状態で何かを象徴的に得たとしても、それを日常的な意識の状態で生かすには、もう一つのプロセスが必要なのです。
ジェンドリンはこれを「統合のジレンマ」と呼びます。

ですから、夢に現れた成長のステップも、日常の意識により近い「フォーカシング」によって、しっかりと身に付ける必要があるのです。
posted by morfo1 at 08:09Comment(0)現代