サージ・カヒリ・キングのフナ

サージ・カヒリ・キングは、アメリカ人でありながら、2代続いてハワイのシャーマンの家の養子となって、ハワイのシャーマニズムである「フナ」の訓練を受けた人物です。
また、心理学者でもあり、アフリカのヒーラーからも学びました。

アメリカ大陸のシャーマニズムとは異なって、「フナ」は変性意識に入るのに幻覚性植物も太鼓・ダンスも使いません。
また、何かと戦う「戦士」の道ではなく、調和を求める「冒険者(愛)」の道を歩みます。

サージが語るヒーリング手法は多面的で、心理療法の観点から見ても、深い知見に基づく巧みなものです。
そして、精神の肉体への影響を重視し、ヒーリング(治療)と精神解放を一体で考えます。

ですが、彼が説くヒーリングの教えの中で、どこまでが伝統的なもので、どこからが彼のオリジナル、あるいは、現代的な影響によるものかは、分かりません。

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<サージの歩み>

サージ・カヒリ・キングの父のハリー・ローランド・キングは、医学と工学の学位を持ち、ビジネスと政府関係の仕事に携わっていました。
ですが、同時に、カウアイ島に住むシャーマン(カフナ、クプア)のジョセフ・カヒリに養子に迎えられ、その訓練を受けていました。

サージは、父の赴任地が変わるごとに各地に移住しましたが、14才の時からカフナの訓練を受け始め、17才の時に同じシャーマンの孫として養子になりました。
また、サージは、コロラド大学ではアジア研究を行い、アリゾナ州の大学院で国際経営学の学士を終了し、カリフォルニア・ウェスタン大学で心理学の博士号を取得しました。

1964年からは、7年間、西アフリカの救済開発支援プログラムに参加し、セネガル共和国の大統領から章を与えられました。
ですが、この時期に、サージは、アフリカの何人かのヒーラーに学びました。

1971年、サージがアメリカに戻ると、カヒリ家の叔父のワナ・カヒリから本格的に訓練を受け始めました。
そして、1973年には、ハワイのカウアイ島に移住し、「フナ・インターナショナル」という組織を設立して、フナの知識を一般の人に向けて教え始めました。

サージは、1975年、カリフォルニアのロス・パドレス国立森林公園で、神秘体験をして、新しい時代の預言者、光の教師となるべく召命を受けたと感じました。

サージは、「フナ・インターナショナル」の他にも、「アロハ・インターナショナル」を主宰するなど、多くの組織、プログラムに関わって活動をしました。

サージには多数の著作があります。
最初の著作は、「癒しのイメージ・トレーニング」(1981)ですが、この書はフナについては書いておらず、フナに関する初めての書は、次の「ハワイアン・ヒーリング(原題:Kahuna Healing)」(1983)です。
その後、「Mastering Your Hidden Self」(1985)、「アーバン・シャーマン(原題:Urban Sharman)」(1990)、「フナ 今すぐ成功するハワイの実践プログラム(原題:Huna: Ancient Hawaiian Secrets for Modern Living)」(2008)、「Instant Healing」(2020)などを出版しています。

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<フナとカフナ>

ハワイのシャーマニズムを「フナ」と呼びますが、この言葉は「秘密(の知識)」といった意味です。
ハワイのシャーマンを「カフナ」と呼びますが、この言葉は多義的で、「専門家」、「司祭」、「ヒーラー」などを意味します。
シャーマンそのものに関しては「クプア」という言葉もあります。

ワナ・カヒリが語るカフナの伝承によれば、「フナ」の知識はムーに由来し、代々、息子か養子へと継承されてきました。
「フナ」の哲学は、1700年にまとめられた創造の歌「クムリポ」に歌われています。

「カフナ」には3つの流派があります。
感情派の「ク」は、宗教、政治、戦闘の技術を持ち、感情の解放や、環境に対して直接的なコントロールをしようとします。
知性派の「ロノ」は、薬草や農業、航海術などの知識を持ち、環境の法則を理解することを重視します。

そして、カヒリ家の属する直観派の「カネ」は、霊的教えや魔術の技術を持ち、霊的統合や自分の完全なコントロールを目指します。
また、想像力のコントロールの訓練や、思考が肉体に与える影響を重視します。

サージは、「ハワイアン・ヒーリング」(1983)で、「カフナ」全体で25人、カネ派は6人しかいないと書いています。
また、「アーバン・シャーマン」(1990)では、「カフナ」の教師は5、6人で、皆、アメリカ本土で教えていると書いています。

「フナ」の研究の先駆者に、マックス・フリーダム・ロングがいます。
彼の時代には、「フナ」は法律で禁止されていたため、彼は「カフナ」に会うこともできませんでした。
そのため、ハワイ語の中に暗号化された「フナ」の知識を研究しました。
彼の主著は「奇跡の背後にある秘密の科学(邦題:原展ホ・オポノポノ 癒しの秘法)」(1948)です。

また、彼は、「フナ・リサーチ・インク」を設立しました。
ですが、彼の研究には多くの批判もなされています。

サージは、ロングはいくつかの間違いを犯したとしながらも、先駆者として評価しています。
また、「フナ・リサーチ・インク」にも所属しています。

また、「カフナ」として、「フナ」を最初に知らしめたのは、デーヴィッド・カオノヒオカラ・ブレイです
彼は、1960年にカリフォルニアに渡って、「フナ」を教え始めました。


ハワイのシャーマンの特徴は、「戦士」の道ではなく、「冒険者」の道だということです。
「戦士」が、恐れ、病気、不調和などを擬人化してそれと戦うのに対して、「冒険者」は、それらを擬人化せずに作用として扱い、愛と協力、調和をもって対処するのです。 
「戦い」の比喩は、ストレスを生むので、「フナ」では使用しないのです。

また、ハワイのシャーマンは、アメリカ大陸のシャーマンと違って、仮面、太鼓、ダンス、幻覚性植物を使わずに、つまり、瞑想や夢見に類した方法でトランス状態に入ります。

そして、精神の肉体への影響を重視し、そのヒーリング手法は多面的で、精神の解放と一体的に考えます。


<7つの原則、4層の現実>

サージは、次のような「フナ」の七つの原則的な考え方と、それに対応する行動原理をあげています。

・あなたの考えが世界を作っている(すべては夢であり任意である)
 →自分が現実を作る(イケ)

・限界は存在しない
 →自分に限界を作らず自由になる(カラ)

・エネルギーは意識を向けたところに流れる
 →目標へ集中し成功への意欲を高める(マキア)

・力は今この瞬間に存在している
 →今に集中し、すぐここで始める(マナワ)

・愛することは幸せになること(自他への批判がないと愛が生まれる)
 →幸せになることを楽しみ感謝する(アロハ)

・すべての力は内面から現れる
 →内なる力を信頼する(マナ)

・効果の有無が真実の尺度である(いつも別な方法がある)
 →積極的な姿勢で最高を期待する(ポノ)

つまり、「フナ」では、否定的・限定的な信念を肯定的・調和的な考えに変えることを重視します。
そして、その肯定的な考えを信頼して、目標に集中し、それを実現させようとします。
また、自他を批判せずに許し、祝福し、他人が夢見ることを助けます。


一般に、シャーマニズムは2つのリアリティを区別することが基本とされますが、「フナ」は、現実を次の4つのレベルで見ます。

・霊的世界 :すべては全体的・一体的(神秘的な現実)
・意識的世界:すべては象徴的(シャーマニックな現実)
・主観的世界:すべては主観的(心理的現実)
・物質世界 :すべてが客観的(科学的現実)

「フナ」では、思考内容が物質世界に反映・凝縮されると考えます。
また、すべてのものは、たとえそれが物質であっても、ハイヤーセフルを持っていて、変性意識状態で意識的にコミュニケーションできると考えます。


<人間の3つの意識の統合>

人間は、次のような要素から構成されています。
それぞれは神の名前でもあります。

まず、3つの意識の構成要素があります。

・カネ(アウマクア):ハイヤーセルフ、調和をもたらす
・ロノ:顕在意識、知性、信念、判断を司る
・ク :潜在意識、本能と習慣を司り、ロノがプログラムした命令に従う

そして、身体的要素があります。

・アカ:エーテル体
・キノ:肉体、カネの思考が形として凝縮されたもの

「フナ」のヒーリングは人間の全体を対象とします。
肉体に対する手法は、薬、食事など、エネルギー的手法は、マッサージ、フラ・ダンス(=動的ヨガ)などで精神的手法は、思考や習慣を自覚して置き換えることです。

フナでは、病気は、思考や感情のエネルギー間の争いによる緊張から生まれると考えます。
そのため、ヒーリングは、「ロノ」の「信念」や「習慣」を自覚して書き換えることが中心的課題となります。
「信念」というのは、前提・態度・意見の複合体で、その反応が感情です。
その時、潜在意識(ク)を参加させて、行動、感情を伴ったものにすることが必要です。


「ロノ」の信念や記憶は、体(キノ)に組み込まれます。
例えば、感情的なストレスが肉体の症状となるように。
そのため、逆に、意識的に筋肉をリラックスさせると、習慣的な反応を止めることで、感情を解放することができます。

ヒーリングは、最終的には「カネ」との一体化の結果であるとされます。

そして、全要素を統合した完全な人間は「カナロア」と呼ばれます。
これは癒しの神の名前です。

統合への道を「ハイプレ」と呼びます。
「ハイプレ」のための基本的な意識の持ち方は、先に書いた7つの原則です。

全体的な統合を行うためには、まず、「ロノ」と「ク」を統合します。
すると、自然に「カネ」も統合されます。


また、上記の3つの意識の構成要素とは別の観点で、4つの意識レベルが存在します。
これは先に述べた4つの現実と、ほぼ対応します。

・パパカウナ(神秘的):宇宙と一体化する
・パパコル(相対的) :すべてが相互作用している
・パパルア(心的)  :メンタルな方法で外界に働きかける
・パパカヒ(物質的) :日常生活


<異界への旅>

変性意識状態での異界への旅はシャーマンの特徴です。
これらは、広義の「夢見」であり、「ヴィジョン・クエスト」と表現されることもあります。

「フナ」における世界観は、他のシャーマニズムと同様に、天上世界、中間界、地下世界の3世界からなります。

天上世界の「ラニケハ」は、英雄、「パワー・アニマル」、守護霊・先祖である「アウマクア」や、様々なスピリットである「アクア」がいる、助言やインスピレーションを得る場所です。

マイケル・ハーナーのネオ・シャーマニズムでは、「パワー・アニマル」は地下世界にいるのですが、「フナ」では天上世界にいます。
「パワー・アニマル」は「アクア」の一種です。

「パワー・アニマル」は複数持つことができて、例えば、7つの原則的な考えに対応する7つの「パワー・アニマル」を持ったりします。
「パワー・アニマル」と出会うと、その姿になり、「ティキの庭園(詳細は後述)」に来てもらったり、贈り物をもらったりして庭園に持ち帰ります。

「アウマクア」と出会うためには、例えば、自分の内側に本質を感じ、今の周りの環境を褒め、エネルギーを感じて、光に囲まれるのを感じます。
そして、道を進んで行くと、賢者の姿などをした「アウマクア」と出会います。
「アウマクア」にも、庭園に来てもらうことができます。


中間界の「カヒキ」は、通常の夢の場所であり、また、「ティキの庭園」や「パリ・ウリ」がある場所です。

「ティキの庭園(詳細は後述)」は個々人を反映する特別な場所であり、他の場所へ行くための出発地です。
「天上世界」へは、飛ばずに、樹を登って空の穴を抜けるなどして行くと、その道を逆に辿って戻れます。
一方、「地下世界」へは、洞窟や穴を降りていきます。

「パリ・ウリ(バリ・ハイ)」は、不思議の場所であり、先輩シャーマンがいて、様々なことを教えてくれます。
ここは新しいあり方を発見する世界があり、そこには火山の島で、ボートに乗って行きます。


地下世界の「ミル」は、悪夢と試練の場であり、「力」を象徴する物(宝物やパワー・オブジェクトなど)として取り戻す場所です。
邪魔をする怪物などもいますが、これらは思考の枠の象徴です。

地下世界に行く時は、「パワー・アニマル」に同行してもらいます。
フナの「冒険者」の道では、「ミル」で牙を向いた邪魔者に出会っても、それと戦ったり、避けたりしません。
それに微笑み返し、友好関係を結びます。
もし、襲われても、喰われたらその怪物の腹を通って変容し、尻から出て、先に進みます。

患者の治療ために「パワー・オブジェクト」を探しに行く場合は、そのエッセンスを現実世界まで持ち帰って患者に注入し、また、それを象徴する現実の物を渡します。


<ティキの庭園>

先に書いたように、中間世界にある「ティキの庭園」は、個々人を反映する場所であり、他の場所へ行くための出発地です。

この庭園は、自分の心身の隠れた状態が現れる場所であり、同時に、そこを手入れすることで治療することができる場所です。
それは、「力」の場所であり、「智恵」の場所です。

最初に、自分の無意識にこの庭園を作ること、そして、そこに何らかの心の問題などを象徴的に表現してくれるように依頼します。
そして、毎日、そこを訪れて、観察し、手入れします。

問題があると感じた部分を手入れすると、自然に問題は解決されます。
それが何を表現しているのかを、解釈することは必要ありません。

この庭には、「ヘルパー」がいるので、彼に助言から得ることもできます。
また、そこに何らかのスピリット(アウマクア、パワー・アニマルなど)を呼び、力をもらったり、会話をしたりして智恵を得ることもできます。

患者のヒーリングのための夢見を行う場合は、患者の庭園に入って、そこから天上世界や地下世界に行き、庭園に力をもたらします。

カスタネダの「夢見の中でやって来る場所」は、現実にも存在する場所として設定されますが、その特徴は「ティキの庭園」に似ています。


<様々な夢見の技法>

「フナ」では、異界への旅としての「夢見」以外にも、様々な目的で「夢見」を行います。

一つは、一般的な意味での「夢見」、つまり、明晰夢です。
これは、夢の中の行動を変えることです。

「冒険者(愛)の道」である「フナ」では、例えば、いつも怪物から逃げる夢を見ていたとすると、逃げずに、その怪物に、なぜ落いかけるのか聞いてみるのです。
すると、その怪物は、追いかけているのではなく、着いて行っているのだ、あなたはどうして逃げるのか、と答えるかもしれません。

もう一つの方法は、過去の経験の書き換えです。
トラウマのようになっている記憶があれば、それを受け入れたり、解釈し直したりするのではなく、肯定的な方向体験そのものを書き換えます。
「フナ」によれば、記憶は、事実ではなく、単に、夢と同じものなのです。

「夢見」と似て非なる方法で、「夢見」の延長で、自然などを操作する呪術的方法があって、これは「グロッキング」と呼ばれます。

例えば、雨雲になりきって、雨雲が雨を降らせる夢を見て、実際に、雨を降らせます。
あるいは、自分の足を怪我したとすれば、その部分自身が治るような夢を見て、直します。
他人のヒーリングの場合も、その人自身になりきって、治る夢を見たり、実際に、自分を治療します。


<ナル(融合)の瞑想>

「フナ」では、様々な「ナル(融合)」の瞑想を行います。

「ナル」という言葉は、「平和な融合」、「協力的な関係」といったことを意味します。
「ナル」の瞑想は、判断せずに、ただ、対象に静かに気づいている状態を維持する方法です。
ヴィパッサナーや禅の瞑想に似ています。

気づきの対象に対して中立的ないしは肯定的(おだやかで心地よい期待感)でいれば、対象にエネルギーが流れて、対象が活性化され、肯定的な変化をすると考えます。
この点では、ゾクチェンの瞑想思想に近い考え方でしょう。

また、「ナル」を行えば、対象とつながり、無意識はそれを真似て学習します。

「ナル」の方法や対象は様々です。
「ナル」は一つの瞑想法というより、瞑想の種類といった方が良いのかもしれません。

「見るナル」は、「美しいもの」、「美しいと思っていないもの」、「慣れ親しんだ環境」、「自然」などを対象とします。
「美しいもの」を対象にすると、心も調和を持ち、美しくなります。
他の場合も、今まで気づいていなかったものに気づき、何かを直観的に学ぶことができます。

また、目を動かさずに視界の端を見たり、視野の全体を意識したりします。
すると、習慣の外に出ることになるので、普段の思考のくせを理解することができるようになります。

「聴くナル」も、「見るナル」と基本的には同じですが、音、音楽、暗示的言葉などを聞いて意識します。

「触覚的なナル」は、何か行動をしている時に、その体の動き、その感覚を意識します。
また、ダンスを行ってそれを意識したり、呼吸を意識したりします。
これらによって、体や感覚への感謝や喜びを感じることができるようになります。

「全感覚的なナル」は、例えば、歩きながら、今感じているすべての感覚を意識します。
これらによって、やはり感覚への感謝や、環境とのつながりを感じるようになります。

「考えるナル」もあります。
これは、何か抱えている問題があれば、それについて判断せずに、集中します。
すると、抱えていた問題が変わってしまうことがあります。
別の観点が現れて、問題を見る角度が変わったり、以前自分が立っていた枠組の外に出ることで、問題が問題でなくなってしまったり、ということが起こります。

このように、「ナル」は一種の気づきの瞑想ですが、ヴィパッサナー瞑想のように対象への執着をなくすという方向ではなく、対象を豊かにし、感謝し、学ぶという方向性で瞑想します。


<自他の許しの瞑想>

「フナ」では、自他を「許す」ことが重視されます。
批判は「愛」に反する否定的行為であり、自他を批判することはストレスになります。
逆に、「許す」ことは、エネルギーを解放することになります。

ハワイには、集団の問題を解決するための、「許し」を含む伝統的な儀式「ホオポノポノ」がありました。
1976年に、これをもとにして、「フナ・リサーチ・インク」のモルナー・シメオナが、個人向けの「許し」の儀式「セルフ・アイデンティティ・ホオポノポノ」を開発しました。
さらにそれを、イハレアカラ・ヒューレンが簡略化して、広げました。

サージが語るカヒリ家流の「許し」の儀式は、それらと区別するために、「クポノ」と呼ぶこともあります。

その方法は、まず、最初に「アウマクア」に、自分達の間違いを許すのを感謝します。
そして、問題を語り、それに関する告白をします。
次に、他人を許すこと、問題が消滅したことを宣言します。
そして、抑圧されてきた感情を聖なる光に変えます。
最後に、「アウマクア」に感謝します。

呼吸法とともに行う許しの方法に「ホオポノポノ・イキ」があります。
まず、深くゆっくり呼吸をして、身体を出来るだけリラックスさせます。
次に、息を吸いながら心の中で自分の名前か、「私のアウマクア」と言います。
そして、息を吐きながら「私は自分の怒りを解き放す」、「私は○○を許す」と言います。
この呼吸と宣言を少なくとも三回ずつ、自分自身をより良く感じるまで繰り返します。

また、なかなか許し難い他人を許すための瞑想法があります。
これは、相手に何かをあげることをイメージします。
最初は、無理のない範囲でちょっとしたものを贈りますが、徐々に贈物を大きくしていきます。


Huna from Hawaii 
Words From Serge 

アルベルト・ヴィロルドのワン・スピリット・メディスン

アルベルト・ヴィロルド(ビジョルド)は、ネオ・シャーマニズムの旗手の一人です。

彼は、アンデス、アマゾンのシャーマンに学んだため、マイケル・ハーナー同様に、トリップ体験をもとにした治療を重視します。
ですが、メキシコのトルテック系のカルロス・カスタネダやドン・ミゲル・ルイスのように、精神の解放も目的とし、さらに、エネルギー・フィールド(霊体)を利用した治療も行います。
また、ユング心理学にも興味を示し、イメージや象徴を重視して、心理療法のような手法も使います。

このように、ヴィロルドは、ネオ・シャーマニズムの諸潮流を統合する位置にいます。

ヴィロルドには多数の著作がありますが、日本で翻訳のある「ワン・スピリット・メディスン」と、彼のウェブサイト、ブログの記事を元に、彼の思想の一面を紹介します。

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<ヴィロルドの歩み>

アルベルト・ヴィロルドは、1949年、キューバ生まれの心理学者、医療人類学者です。

ヴィロルドは、サンフランシスコ州立大では博士号を取得し、同大学の非常勤教授時代には、生物学的自律研究所を設立しました。
そして、そこで、エネルギー医学の観点から、脳と心因性の病気や健康の関係を研究しました。

その後、研究範囲を広げて、精神の影響を対象とする必要を感じ、アンデスとアマゾンでシャーマンの治療法の研究を始めました。
1970年から79年にかけては、ペルーの高名なシャーマンのドン・エドゥアルド・カルデロンの調査を行い、弟子になりました。
ヴィロルドはこのシャーマンの影響を受けています。

こうしてヴィロルドは、独自のヒーリング手法を編み出しました。
彼の手法は、食からエネルギー・フィールドまでを含む全体的なものです。

ヴィロルドは、活動的な人物で、「フォー・ウィンド・ソサエティ」、及びチリの「エネルギー・メディスン・センター」のディレクターであり、「ライトボディ・スクール」の設立者です。

ヴィロルドには、スタンリー・クリップナーとの共著「魂の癒し手」(1987)、「シャーマン、ヒーラー、セージ」(2001)、「4つの洞察力」(2007)、「勇気ある夢」(2010)、「パワー・アップ・ユア・ブレイン」(2011)、「グロウ・ア・ニュー・ボディ」(2019)など、多数の著作があります。
日本で翻訳されているのは、「ワン・スピリット・メディスン」(2015)のみです。

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<ワン・スピリット・メディスン>

ヴィロルドは、病気と治療に関して「ワン・スピリット・メディスン」という考え方、治療体系を提唱しています。
著書「ワン・スピリット・メディスン」によれば、これは病気の原因も治療法も一つである、というシャーマンの考え方です。

病気の原因は、「グレート・スピリット」からの隔絶であり、治療法は、すべての存在(グレート・スピリット)と一体になることです。

ですが、具体的な方法としては、次のように複数に分けられます。

・食事療法
・個人の内なる地図の塗り替え(エネルギー・メディスン)
・ヴィジョン・クエスト


「食事療法」は、断食、植物中心の食生活によるデトックス、スーパーフード、スーパーサプリなどによる栄養素の摂取、プロバイオティクスなどによる腸内環境の調整などです。

ヴィロルドは、大脳辺縁系に蓄積された制約的な信条、無意識のプログラムを「専制君主」と呼びます。
これは恐怖や怒り、苦悩などの有害な感情をつきまとわせるもので、トラウマ体験があればここに埋め込まれています。

ヴィロルドの「専制君主」は、カスタネダの「捕食者」やルイスの「パラサイト」に似た存在です。
ですが、ヴィロルドの場合、それを言語的なもの(左脳)とするのではなく、大脳辺縁系(哺乳類脳)の働きとする点が特徴です。

ヴィロルドは、「食事療法」がこの大脳辺縁系をアップグレードする力を持っていると言います。


次の「個人の内なる地図の塗り替え」というのは、個人のアイデンティティや人生観を変えることです。
この「地図」は、外界の認識や信条も作っています。

ヴィロルドは、これらを担っているのは大脳新皮質だと言います。
大脳新皮質のプログラムは、創造に関わるもので、「ワン・スピリット・メディスン」によって活性化されます。

大脳新皮質の右脳は神話によって起動します。
そのため、「新しい自分の神話」を見つけることで、「個人の内なる地図の塗り替え」が可能となります。

つまり、自分をヒーローとする神話的な人生の新しい自己イメージを作ることです。
そしてそれは、有機的・調和的な世界観と、死の恐怖のない全体との一体感を伴うものです。

ヴィロルドは、「日常的リアリティ/非日常的リアリティ」という区別を、量子力学の比喩から「粒子の状態/波の状態」と表現します。

夢や神話、エネルギー・フィールドは、「波の状態」に当たります。
「ワン・スピリット・メディスン」は、夢に見た世界を現実にしてくれると言います。
そして、神話は、エネルギー・フィールドに働きかけること(エネルギー・メディスン)で、健康になる遺伝子のスイッチをオンにすることができます。

「新しい自分の神話」作りには、「メディスン・ホイール」を利用すると便利です。
「メディスン・ホイール」は、4方位に動物を配置する世界観であり、それぞれの方向に対応する元型的な物語(地図)があります。
それらをつなげることで、全体としての「新しい自分の神話」を作ります。

1 南:蛇      :ヒーラーの旅
2 西:ジャガー   :聖なる女性性への旅
3 北:ハミングバード:賢者の旅
4 東:鷲      :ヴィジョナリーの旅

1の「ヒーラーの旅」では、過去の自分の社会的な役割を脱ぎ捨てます。
これは男性性の癒しの旅です。

この段階で行うヒーリング手法としては、不快な自分の役割を紙に書いて焼くといった儀礼的方法があります。
また、エネルギー・フィールドから古い刷り込みを消す「イルミネーション・ワーク」(詳細は後述)も行います。

2の「聖なる女性性への旅」では、女性性のエネルギー、死に直面します。
死の恐怖を解放するために未知への敷居を跨ぎ、女神から贈り物をもらいます。

この段階で行うヒーリング手法としては、やはり、エネルギー・フィールドから病気の痕跡を消し、チャクラの重たいエネルギーを解放する「イルミネーション・ワーク」を行います。

3の「賢者の旅」では、沈黙・静寂を学びます。
言葉のない沈黙の知によって、自分たちが現実を考えているものが幻想であり、共同で創造しているものに過ぎずないことを理解します。

この段階で行うヒーリング手法としては、呼吸に集中して自分を観察する方法があります。

4の「ヴィジョナリーの旅」では、自分が全体の一部であると理解し、創造に参加し、叡智を他人と共有します。
天上への旅によって、叡智を持ち帰ったりします。

この段階で行うヒーリング手法としては、未来の自分を「見る」ことで成長を促す方法があります。

以上の「新しい自分の神話」は、変性意識や夢見でヴィジョンとして見るのではなく、瞑想的な方法によって時間をかけて内面化するのでしょう。


次の「ヴィジョン・クエスト」は、「グレート・スピリット」とつながることです。
「グレート・スピリット」は、見えないマトリックス、宇宙の知的フィールドであり、生命を調和させる力です。

「ヴィジョン・クエスト」は、「メディスン・ホイール」の4つの物語を内面化できて始めて、試みることができます。

「ヴィジョン・クエスト」では、食事制限をした後、野外で3日間、動かずに過ごしてヴィジョンを得ます。
多くの場合、現れたパワー・アニマルと対話を行い、その動物になる想像をします。

また、「ヴィジョン・クエスト」とは違いますが、様々な「地下世界への旅」を夢見で行うことも、ヒーリングの方法です。(詳細後述)

「新しい自分の神話」や、ヴィジョンの旅など、ヴィロルドは、象徴的なイメージや心理療法的とも言えるようなヒーリングを重視するのが特徴です。


<光が輝くエネルギー・フィールド(LEF)>

ヴィロルドは、人間のエネルギー・フィールドを「光が輝くエネルギー・フィールド(LEF)」とか「ライト・ボディ」と呼びます。
LEFは、健康な状態では虹の色を放つので、「虹の体」とも呼びます。

LEFは、単に神経系の電気的活動によって生じるものではなく、身体、脳、神経系などを作り、調和させ、維持する情報を提供するテンプレート的存在です。
ここには、私たちの生き方、年齢、治癒方法、そして死ぬ可能性などの情報が含まれています。

このテンプレートには、私たちの個人的および先祖の記憶、幼年期のトラウマ、及び、以前の生の傷のすべての「アーカイブ」が存在します。

LEFは、「因果的(スピリット)」、「サイキック(魂)」、「感情的(心)」、「身体的」の4層から構成されています。
物理的なトラウマの痕跡は最外層、感情的な痕跡は2番目、魂の痕跡は3番目、精神的な痕跡は4番目の最深層に保存されています。

LEFの存在する病気の痕跡は、「イルミネーション・プロセス」(詳細は後述)によって消します。
これによってLEFの情報をアップグレードし、新たな神経網の形成を促したり、免疫系を強化して急速に病気を直すことができるようになります。


<イルミネーション・プロセス>

ヴィロルドが行うエネルギー・ヒーリングの中心にあるのは、彼が「イルミネーション・プロセス(イルミネーション・ワーク)」と呼ぶ方法です。

「イルミネーション・プロセス」は、「重い」生命エネルギーを、光に変換するもので、これによって、否定的な感情や行動を変え、免疫システムを強化して身体の治癒を促進させます。

「イルミネーション・プロセス」には、3つの方法があります。

・チャクラの汚れを燃やす。
・身体的および感情的な病気の痕跡の有毒なエネルギーを燃やす
・痕跡を綺麗にする

最初のチャクラの浄化法は、次のように行います。

まず、ヒーラーがLEFで患者を包み込んだ後、患者の頭を両手で抱きしめ、後頭部の下部に手を当てます。

そして、障害のあるチャクラに手を当てて、反時計回りに3〜4回回転させます。
これによって、チャクラの重いエネルギーが燃焼して排出されます。

次に、頭上の8番目のチャクラに輝く太陽を視覚化し、右手で光を集めて、患者のチャクラに金色の光のシャワーを浴びせます。
そして、後頭部の下部に手を再び持って行き、数分間、保持します。

最後に、チャクラを時計回りに3〜4回回転させてバランスを調整し、ヒーラーのLEFを閉じて、頭上の光球に戻します。


<集合点の移動>

ヴィロルドは、カスタネダが言う知覚の「集合点の移動」という考え方を継承しています。

ですが、ヴィロルドのそれは、カスタネダのそれとは大きく異なり、むしろ、ゴールデン・ドーンやクリヤ・ヨガの行法に近いものです。
ヴィロルドの方法では、4つのチャクラの場所に「集合点」を移動して、それぞれの意識を感じるのです。

ヴィロルドによれば、「集合点」はチャクラを介して受信した超感覚情報を知覚します。
そして、普通の人間の「集合点」は、グレープフルーツほどの大きさで、頭上6〜8インチの8番目のチャクラ(ウィラコチャ=グレートスピリット)の位置にあると言います。

「集合点」の移動は、次のように行います。

まず、患者の「集合点」の位置を、手の感覚を使って、体を走査することで見つけます。
感覚的には、異常に熱かったり、冷たかったりします。

そして、「集合点」の位置を頭上の8番目のチャクラに持っていきます。
次に、「蛇」の領域である基底部のチャクラに移動、保持し、それを感じてから、また、8番目のチャクラに戻します。

同様に、次は、「ジャガー」の領域である2番目のチャクラに移動、保持して、戻します。

次に、「ハチドリ」の領域である眉間のチャクラに移動、保持して、戻します。

最後に、「イーグル」の領域である頭上のLEFの外にある9番目のチャクラに移動、保持し、戻します。
そして、自然全体とのつながりを体験します。


<聖なる空間を作る>

ヴィロルドは、「聖なる空間」の瞑想(魔術的な結界)を重視します。
治療を行う時にも、トランス的夢見の状態で異世界への旅に出る時にも、最初にこれを行います。

これは、東西南北の4方向と、母なる地球と、父なる空の、6つのスピリットを呼び出す方法です。
4つの方角の動物は、南が「蛇」、西が「ジャガー」、北が「ハチドリ」、東が「イーグル」です。

次に、頭上の8番目のチャクラに、小さな輝く太陽を視覚化し、手をそこに触れて、その光が体を包み込むように降ろします。

最後に「小さな死の呼吸」を行います。
これは、吸気、止気、呼気のそれぞれで7カウントしながら、7呼吸することで、心を落ち着かせる方法です。


<地下世界への旅>

ヴィロルドは、様々な目的で、地下世界の庭や部屋への旅を行い、ヒーリングのために利用します。
旅は、基本的には患者自身が夢見として行い、ヒーラーはそれをサポートします。

例えば、次のような旅です。

・パワー・アニマルを見つける旅
・原初のエデンへの旅
・4つの部屋への旅

それぞれの場所に行くには、地下世界の門番に行先を説明して案内してもらいます。
それぞれの場所では、観察し、感じたり、会話をして知識を得たりします。


ヴィロルドは、パワー・アニマルとは、しばしばその人の無視された部分や影の部分を象徴するもので、人を自然のままの状態につなげると言います。

その獲得方法は、地下世界の聖なる庭に行き、石の上に座って待っていると、パワー・アニマルが背後から近づいて来るのです。
パワー・アニマルとは、会話をして、連れて帰ります。


「原初のエデン(プライベート・エデン、聖なる庭)」は、偉大な母の命を与える子宮であり、癒しを与えてくれる場所です。
「エデン」は地下世界にあるとも、地下世界がそのまま「原初のエデン」であるとも考えられます。

「原初のエデン」に行ってそこを観察し、そこで安らぎ、そこの自然と会話をすることで、自分の失われた魂の部分、恵みや無邪気さを取り戻すことができます。


「4つの部屋」というのは、「傷の部屋」、「契約の部屋」、「恵みの部屋」、「宝物の部屋」の4つです。
これらは「エデン」の一部と考えられます。

「傷の部屋」は、最初に行くべき場所で、魂の一部が逃げてしまうような、深く埋もれた傷を発見する場所です。
どのような傷を受けているか、象徴的・演劇的に示されるかもしれません。

「契約の部屋」は、次に訪れるべき場所で、自分が作った魂の約束を発見する場所です。
その契約をした年齢の自分と出会い、その契約の説明を受けます。
それは、自分を苦しめるような約束なので、再交渉してこれを変更するのです。

「恵みの部屋」は、癒された魂の部分がある場所です。
ここには、完全な状態の自分がいますが、その自分は、年齢、性別が今の自分とは違った姿をしているかもしれません。
ここで、失われた魂の部分を取り戻した、調和の贈物を探します。

「宝の部屋」は、生活に役立つ贈物を獲得する場所です。
何らかの能力を伸ばしたい時に訪れます。
この部屋と贈物には、表面的なレベルのものから、深層的な(芸術的な)レベルのものまでがあります。


以上のように、様々な目的で様々な異界の場所へ夢見の旅に出るのは、ネオ・シャーマニストの中では、ハワイのフナのサージ・カヒリ・キングに似ています。


<過去と未来への旅>

ヴィロルドは、「過去」や「未来」への旅も行います。
これを過去や未来へ延びる「エネルギーの追跡」と呼びます。

未来への旅では、何らかの問題をかかえた患者が、癒された状態の自分、成功した自分を見ることで、癒しを得たり、あるいは前向きに創造的になります。

過去への旅では、病気や何からの問題の原因が発生した過去の体験に戻り、その原因を見つけます。
そして、それを受け止めることで、問題を解決するよう前向きになります。


Albert Villoldo Ph.D.
The Four Winds 


ドン・ミゲル・ルイスのトルテック

ドン・ミゲル・ルイスは、カルロス・カスタネダ同様に、トルテックのシャーマニズムを継承していると主張している、ネオ・シャーマニズムの旗手の一人です。

ルイスの思想は、カスタネダの思想同様に、病気治療より精神の解放を目指すものであり、また、日常的世界観を幻と見るような、非実在論的なシャーマニズム(私の表現では「高等シャーマニズム」)です。

ですが、ルイスはカスタネダと違ってシャーマンの家系に生まれ、その著作で理路整然とした思想に基づいた実践を説いています。

とは言っても、彼の思想がどこまで伝統的で、どこからが現代的な影響のもとにあるもの、彼オリジナルなものであるのか、分かりません。

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<ルイスの歩み>

ドン・ミゲル・ルイスことミゲル・エンジェル・ルイス・マシアスは、1952年、メキシコの片田舎に生まれました。
祖父ドン・レオナルドはナワール(シャーマン)で、母マドレ・サリータはキュランデラ(ヒーラー)でした。

彼は医学部を卒業し、脳神経外科医になりました。
この間、ドン・エステバンという謎の呪術師からも学びました。

ですが、致命的な自動車事故にあって人生観が変わり、1980年から母の力を借りて先祖の教えを学ぶようになりました。
また、本人によれば、変性意識の中で世界の諸宗教を学んだそうです。

そして、1988年にテオティワカンでヴィジョンを得て、トルテックの伝統的な恐怖を解き放つプロセスを発見したそうです。
彼によれば、テオティワカンは、目覚めのために設計されたセンターでした。
テオティワカンの死者の通りは、恐怖を手放し、死への準備のプロセスを表現していて、死の川を渡ることから始まり、最後に、太陽のピラミッドで、自分の意図と太陽の意図を合一させるのです。

1997年に、アーティストのネルソン・メアリー・キャロルがルイスの教えを編集してまとめた「恐怖を越えて」、続いて、ルイスの最初の著作「四つの約束」が出版されました。
後者は、短くて分かりやすかったこともあって、アメリカの600万部のベストセラーとなり、一躍、有名人となりました。

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その後、ルイスは、「愛の選択」(1999)、「四つの約束コンパニオンブック」(2000)、「火の環」(2001)を矢継早に出版。

ですが、ルイスは、2002年に致命的な心臓発作を起こしました。
そして、自分の血統を息子のドン・ホセ・ルイスに引き渡しました。

ルイスは、その後も、「パラダイス・リゲイン」(2004)、「五つの約束」(2010、息子のホセ、ジャネット・ミルズとの共著)などの著作を出版しました。

そして、2010年、ルイスはロサンゼルスの病院で心臓移植を受け、現在はネバダ州に住んでいます。

もう一人の息子のドン・ミゲル・ルイス・ジュニアも、父を継承して活動しています。


<トルテック>

ルイスは、「トルテック」という言葉は、国家や種族を示す言葉ではなく、「知識を持つ者」という意味だと言います。
そして、その師のことを「ナワール」と呼ぶのだと。

「トルテック」はかつてテオティワカンにいて、その後、様々な流派が継承されていて、ルイス自身は、「イーグル・ナイト派」に属しているのだと言います。

かつて、第5太陽期という時代に、トルテックを率いたスモーキー・ミラーが、テオティワカンの太陽のピラミッドの地下にある洞窟に入り、自分達は皆、夢を見ているのだという教えを説きました。
その後、テオティワカンは北方からの侵入を受け、トルテックはトゥーラ(トルテカ)に逃亡しました。
トルテックの高僧は、ケツァルコアトル(ナワールの象徴)とスモーキー・ミラー(トナールの象徴)の二人から構成されました。

ルイスは、1992年に太陽光線の変化に気づき、第6太陽期が始まったと考えました。


ルイスは、あるがままの自分を受け入れる「愛」の思想をベースにして、精神の解放を目指すことを説きます。

ルイスの使う概念は、少し意味は違いますが、その多くがカスタネダと共通しています。
その中のどれが共通するトルテックの伝統に基づくものであり、どれがカスタネダからの影響なのか、分かりません。
カスタネダの影響があるとしたら、ルイスはそれを自分流に解釈しています。

ですが、ルイスは、カスタネダと違って、霊視やテレポート、エネルギー・フィールドや「集合点」の移動、明晰夢としての「夢見」の技法については、ほとんど説きません。


<宇宙論・人間論>

まず、「四つの約束」、「恐怖を越えて」を中心にして、ルイスの宇宙論、人間論を簡単にまとめます。

宇宙の存在はすべて、神の顕現であり、「光」で作られている一つの生命であり、「光」は生命の使者です。

星は「トナール」と呼ばれ、星間の光は「ナワール」と呼ばれます。
両者の空間を作っているのが「生命」であり、これは「力」であり、「意図」とも呼ばれます。
「生命」は「トナール」と「ナワール」の組み合わせで出来ています。

人間は太陽の子であり、太陽は人類に進化上の変化を引き起こすためのメッセージを送る存在です。

人間の知覚は、「光」を感受している「光」です。
ですが、物質は「光」を反射する「鏡」であり、「光」によってイメージ、幻影が作り出されます。
「夢」は「鏡」を覆う「煙」や「霧」の壁のような存在です。
人間は誰もが「夢」を見ていて、そのことに気づいていません。
人間は「煙に覆われた鏡」なのです。

人間は、他の人間から与えられた「夢」に「合意」してそれを受け入れます。
こうして「信念システム」が生まれ、人間は「飼い馴らし」の状態になります。

「信念システム」は、人間の心を支配する「法の書(地獄の書)」です。
人間の心の中には、これによって自分を裁く「裁判官」がいます。
そして、その有罪判決を受け取り、罪、恥、責めの意識、恐怖の感情を持つ「犠牲者」がいます。
「犠牲者」は「人身御供」であるとも言えます。

これら3つが「パラサイト(寄生虫)」を構成しています。
「パラサイト」は、エーテル・エネルギーである恐怖・怒り・悲しみなどの感情を食料としていて、「恐怖の夢」、「地獄の夢」を作り出します。
その混乱した夢は、「ミトーテ」とも呼びます。

この状態から解放されるには、「合意」に抗する新しい「約束」をすることが必要です。
これによって、「恐怖の夢」を、新しい「愛の夢」に作り変えることができます。

「約束」を実行する人間を「戦士」、「狩人」と呼びます。
「戦士=狩人」は、「愛」に基づく新しい「合意」によって、「パラサイト」という獲物を追跡して、それと戦う存在です。

「パラサイト」は「盟友」とも呼ばれますが、彼らに勝つことができると、彼らは本当の「盟友」になります。


<五つの約束>

ルイスは、「四つの約束」で精神の解放のための4つの原則(約束)を示し、後の「五つの約束」では、一つ増やしました。

1 正しく言葉を使う
2 何ごとも個人的に受け取らない 
3 思い込みをしない
4 つねに全力を尽くす
5 疑い深くある、しかし、耳を傾ける

1は、言葉は創造を行う魔術的な存在なので、自分を裁く方向ではなく、あるがままに肯定し、それを愛する方向で言葉を使うという約束です。
自分を呪う言葉を使わないことによって「黒魔術師」から「白魔術師」になれます。

2は、他人が自分を批判しても、それは彼らの問題(合意)であって、自分には関係ないと思う約束です。
批判は自分の心の中から来る言葉であっても同じです。
それは、実際には外部(パラサイト)から来る声なのです。

これを守ることによって、誰にも傷つけられずに、また、誰にも愛していると言うことができます。

3は、特に他人の気持ちに関して、思い込みをしないという約束です。
コミュニケーションを取って確認することで、思い込みをなくすことが重要です。

4は、約束を常に実行することであって、それによって、今、ここを生きることです。

5は、言葉の背後の真実を見て、自分自身も含めて何も信じなという約束です。

言葉を越えた知識は、信じる必要がないもので、「沈黙の知識」と呼ばれます。
それはあるがままの真実を「観る」ことであり、自分自身を「観る」ことです。


<3つの技術・ステップ>

「戦士」となり「約束」を実行するためには、3つの技術、ステップが必要です。

1 気づき :思い出し、自覚する
2 変容  :夢を変える技術、アクション・リアクションを変える
3 愛・意図:死を受け入れて、あるがままを肯定する

カスタネダとの比較で言えば、これらはカスタネダの言う「忍び寄り(ストーキング)」、「夢見」、「意図」の3組に対応させることができます。


1の「気づき」の技術は、古い「合意」が自分の中で働く度に、それによって恐怖が起こる度に、それに気づくことです。
この気づきを「第二の注意」と呼びます。

そのためには、自分の中の「アクション-リアクション」に気づく必要があります。
例えば、古い合意に基づいて自分を裁くことが「アクション」です。
それに基づいて、自分自身を罪人と見做すことが「リアクション」です。

また、この「気づき」には、各自が内部に持っている、言葉以前の「沈黙の知識」への気づきという意味もあります。


2の「変容」の技術は、「パラサイト」が喜ぶような、恐怖の感情を止めることです。

そして、新しい約束に基づいて、あるがままの自分を取り戻し、「恐怖の夢」を新しい「愛の夢」に作り変えることです。


3の「意図(愛)」の技術は、象徴的な死によって「パラサイト」を殺すことです。
これは、「死のイニシエーション」とも呼ばれ、「死の天使」に直面して降伏し、無執着の状態になることです。

「意図」というのは、宇宙(神)の「生命」、「力」のことであり、「愛」でもあります。
「意図」の技術は、神と一つになり、どの行為の中にも神が存在するようになることを目指します。

「意図」の技術は「愛」の技術です。
ルイスは、「愛の選択」で、「愛」の性質について、義務がない、期待がない、尊敬に基づく、同情しない、責任を持つ、常に優しい、無条件である、と書いています。

「身体的養生法」と表現される身体に関する瞑想的方法も、「愛」の技術でしょう。
この方法の中心は、生きている喜びを感じ、自分の肉体に対して感謝し、献身の愛を捧げます。

また、体の各部分に溜まった感情を解放し、それによって、チャクラを流れるエネルギーを調和させます。

そして、「火の呼吸法」と呼ばれる呼吸法では、吸気と共に、空気が太陽→松果腺→脊髄基底部→地球と降りてくると観想します。
そして、これに地球が答えて、呼気と共に、地球→脊髄基底部→松果腺→太陽と戻っていくと観想します。

他人に関しては、たとえ自分を傷つけた者でも「許す」ことが重要です。
「許す」ことは、自分の心を癒やすことにもなります。


<変容のための2つの方法>

夢を変容させるための方法が2つあります。
ルイスは、それぞれの方法を、上記の特定のステップに関連させて語ることがありますが、実際にはそれぞれの方法を完全に行えば、そこに3つのステップがあるハズです。

1 棚卸し(要約):夢見の技術、イーグルの技術、過去に関わる
2 ストーキング :生きる技術、ジャガーの技術、現在に関わる


1の「棚卸し」は、過去の記憶を思い出して、再体験する方法です。
この点では、「気づき」の技術ですが、それだけではなく、体験を捉え直して変容させることが必要です。

「棚卸し」では、自分のすべての「合意」、「信念」を調べることになります。
この作業は、比喩的に「砂漠に行って悪魔と対面する」とも表現されます。

ルイスの「棚卸し」は、カスタネダが言う「反復」に対応する方法です。
カスタネダの方法と同じように 知人一人ごとにリストアップして思い出します。

また、カスタネダ同様に、呼吸法を使います。
「愛」を思い浮かべて呼吸をしながら、記憶を捉え直し、心の傷を清めます。
こうして、未処理になっていた感情のひっかかりを、見直して解放するのです。

「棚卸し」に慣れると、これを自動的に行えるようになり、さらには、夢の中でも行えるようになります。


2の「ストーキング」は、常に自分の思考、行動、反応に対して自覚し、それらを変えていくという、現在に関わる方法です。

これには2段階があって、まず、個人の夢を対象にし、次に、社会や人間全体の夢(惑星の夢)を対象にします。

「ストーキング」は、カスタネダの文脈では「忍び寄り」と訳されているものです。
カスタネダはこの言葉を多義的に使っていますが、ルイスは、一つの意味に明確化し、彼の思想の中に位置づけています。


<3つの注意の夢>

ルイスの方法は、夢を変容させていきますが、夢を3つの段階で区別します。

・第一の注意の夢:犠牲者の夢(地獄の夢)
・第二の注意の夢:戦士の夢(戦いの夢)
・第三の注意の夢:達人の夢(天国の夢)

「第一の注意の夢」は、普通の人間が昼夜に見ている夢(世界認識)であり、自分が夢見ていることに気づかずに見る夢です。

「第二の注意の夢」は、自分の夢を自覚して、それを変える戦いの夢、変えた新たな夢です。

「第三の注意の夢」は、戦い終えて、あるがままの自分を受け入れた夢です。
これは「愛と喜びの夢」であり、神・意図・宇宙に従った夢です。
これによって、自分が宇宙と一体であることに気づきます。


<心臓の炎の瞑想>

ルイスによれば、「ナワール(シャーマンの師)」は、意志の内部に、太陽の複製を発達させる人間です。
その太陽は「黒い太陽」と呼ばれます。

また、「四つの約束」の最後に、「愛の祈り」という瞑想のヴィジョンが掲載されていて、その中に以下のような部分があります。

それによれば、頭から美しい光を放つ一人の老人が、胸を開いて「心臓」から美しい「炎」を取り出して、私の「心臓」に入れました。
その「炎」は彼の「愛」だったので、私は「愛」を感じました。
その「炎」は燃え上がり、「愛」は成長して、私はすべてを愛し、愛されると感じるようになりました。

マヤ=トルテカ系には、第二の「神化された心臓」を作るという世界観があります。
また、主神のケツァルコアトルは、自分の心臓を燃やして金星になりました。
上記の祈りの瞑想ヴィジョンには、こういった伝統が取り込まれているようです。


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