神秘主義思想(神智学)は3つスタイルで表現されると考えています。
一つは、理性的、概念的な方法で、「哲学」、あるいは「神学」としての表現です。
神秘主義的な哲学は、日常的な概念ではなく、抽象的、普遍的、観念的、動的、多義的、直観的な表現になります。
論理も、合理的なものではなく、矛盾するような表現になります。
こういった方面から神的なものに近づく実践法は、古代ギリシャでは「テオリア(観照)」と呼ばれる超理性的な瞑想法です。
もう一つは、感性的、イメージ的な方法で、魔術的なもので、「象徴体系」としての表現です。
占星学的な思考も、象徴体系を宇宙論として位置づけたものです。
神秘主義でのイメージ表現は、動的、象徴的、非形象的、直感的になります。
こういった方面から神的なものに近づく実践は、「観想」と呼ばれる、あるいは単に「象徴」を利用した瞑想法です。
「降神術」のような魔術的な方法や、「儀式」という形式で「観想」が行われる場合もあります。
3つ目は、象徴を神格や物語に展開する方法で、「宗教」や「神話」としての表現です。
こういった方面から神的なものに近づく実践には、神話を演劇的に体験する「秘儀」と呼ばれるイニシエーションです。
あるいは、「祈り」と呼ばれる瞑想だったり、「帰依」や「信愛」と呼ばれる態度だったりします。
例えば、プラトンは高次のイデアとして、「善」「美」、「イデア数」と呼ばれる「一(点・知性)」「二(線・推論)」「三(面・推測)」…、「メタイデア」と呼ばれる「同」「異」「相当」「類似」「偶」「奇」…を考えました。
新プラトン主義のプロティノスでは、神的存在に対して、「一なるもの」、「有(存在)」、「生命」、「知性」などと表現しました。
これらは、直観的に理解すべき、抽象的・普遍的な観念による表現です。
また、ゾロアスター教は、神的存在を至高神「アフラマズダ」、大天使「スプンタ・マンユ」「ウォフ・マナフ」「アシャ」「クシュラ」「アールマティ」「ハルクタート」「アムルタート」として表現します。
これらは、物語として理解すべき、神格・神話による表現です。
ゾロアスター教は、もう一方で、それぞれの神格の本質を「善(光)」「聖なる霊」「善思」「正義」「統治」「敬虔」「完全」「不滅」と表現しました。
これらは、直感的に理解すべき、象徴・象徴体系による表現です。
占星学の7惑星や12宮、カバラのセフィロート、マンダラの尊格、易の卦も同じです。
神秘主義思想(神智学)は、これらの3つ領域を翻訳したり、統合しようとしてきました。
例えば、プラトンは、表現方法として神話に一定の役割を与えました。
ローマ時代の中期プラトン主義者は、宗教や秘儀を哲学的に解釈して対応づけました。
ヘレニズム時代の新プラトン主義者は、さらに象徴の意味づけを行って、魔術との統合をしました。
それらを引き継いだイスラムの哲学者も、イブン・ズィーナーは、直観的理性と直感的感性のそれぞれを階層的に考えて対応付け、それを宇宙論として位置づけました。
スフラワルディーも同様の試みの中に、天使論を統合しました。
つまり、イデア界(直観的理性)と星辰世界(直感的感性)と天使界(神話)という3つの領域を統合しました。
本ブログでは、時代や地域を越えた交流の中で行われる、異なった表現領域を越えた翻訳や統合の試みの面白さ、貴重さを示せればと思っています。
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