ゾロアスター教(マズダ教)の宇宙論の時間的展開と、神話の本質、そして、その影響について紹介します。
ただし、ゾロアスター教の聖典類が文字に記されたのは、ゾロアスターから1500年ほど後の6C頃になってからです。
ですから、その時点のものは、すでに他の宗教や哲学からの影響も受けている可能性があります。
宇宙論は神話と深い関係がありますが、ゾロアスター教の神話は姉妹ブログ「神話と秘儀」の「ゾロアスター教とガヤ・マルタンの殺害」もご覧ください。
マズダ教によれば、ゾロアスターはアフラ・マズダ(オフルマズド)を至高神とし、アフラ・マズダが2神スプンタ・マンユとアンラ・マンユ(アフリマン)を生み出し、両者が自由意志で善と悪を選んだと考えました。
スプンタ・マンユはアフラ・マズダの積極的な側面であって、ほとんどアフラ・アズダと同一視されました。
そして、アフラ・マズダとアンラ・マンユは戦いを始めます。
宇宙(物質世界)はアフラ・マズダによってアンラ・マンユを閉じ込めるために作られた神聖なものです。
最初の3千年で目に見えない霊的世界(メーノーグ)で作られ、次の3千年で目に見える物質世界(ゲーティーグ)で作られました。
次の3千年は、アンラ・マンユが宇宙を攻撃して宇宙は汚されます。
原人間ガヤ・マルタン(ガヨーマルト)は殺害されて、その結果、人間が生まれます。
ですが、最後の3千年でアンラ・マンユはアフラ・マズダによって撃退されます。
この最後の3千年は、ゾロアスター誕生に始まって、千年ごとに処女懐胎で生まれたゾロアスターの子である3人の救世主「サオシャント」が現われます。
こうして、宇宙はゾロアスターの誕生を起点として徐々に浄化されていきます。
ただ、それぞれの1000年の間に関してしては、「黄金の時代」、「銀の時代」、「鋼の時代」、「鉄の時代」を経てゾロアスターの教えが徐々に失われて宇宙は悪化しますが、最後に聖王がそれを復活させます。
そして、最後のサオシャントが57年の神聖な統治を行った後、最終戦争によって悪は追放され、宇宙は誕生後1万2千年で浄化されて物質のままで完成します。
つまり、宇宙は悪を克服するために創造されて堕落させられた後、浄化されて完成するのです。
(ゾロアスター教の時間)
●目に見えない世界の創造期間
↓ 3000年
●目に見える世界の創造期間
↓ 3000年
●アンラ・マンユによる宇宙の攻撃と宇宙への投獄の期間
↓ 3000年
●アンラ・マンユの撃退期
○ゾロアスター誕生
↓ 1000年(黄金の時代~銀の時~鋼の時代~鉄の時代)
○第1のサオシャント
↓ 1000年(黄金の時代~銀の時~鋼の時代~鉄の時代)
○第2のサオシャント
↓ 1000年(黄金の時代~銀の時~鋼の時代~鉄の時代)
●第3のサオシャントによる統治
↓ 57年の
●最終戦争・最後の審判・神の国
ゾロアスター教の神話では、現人間ガヤマルタンと聖なる牡牛がアフリマンに殺されて、それぞれから、人間・金属と穀物・薬草・動物達が生まれます。
また、終末にサオシャントによって牡牛が供犠にされ、人間はその脂と白ハオマ樹の混合した不死の霊液を飲んで不死になります。
ペルシャ神話では白ハオマ樹はペ生命の樹に当たり、天の牡牛スリソークの供犠とともに終末に人間を不死にします。
ゾロアスター教ではこういったペルシャ神話をベースにしながら新しい神話を作っています。
白ハオマ樹は霊的生命、聖なる牡牛は物質的・無意識的な豊穣性を象徴します。
ゾロアスター教の宇宙論の特徴は、一方向的な時間軸(物質的な宇宙の始まりと終わり)と厳格な善悪2元論が徹底されていることです。
そして、物質的な宇宙は悪を克服するためにアフラ・マズダによって作られたもので、物質のままで浄化されて完成して永遠にそのまま存在し続けることです。
ですから、ゾロアスター教には物質や現世に対する否定的な見方はありません。
宇宙の創造の順序は、まず、霊的に高い存在から物質的な存在へと下っていきますが、物質的存在に関しては鉱物から人間へと進化論的に昇っていきます。
また、ゾロアスターの誕生は宇宙浄化への転換点にあたります。
ゾロアスター教の終末論や救世主、悪神(堕天使)の考えがユダヤ、キリスト、イスラム教に根本的な影響を与えたことはよく知られています。
他にも、ペルシャ系のミスラ教、マニ教、さらにギリシャ哲学、仏教、ヒンドゥー教、道教にも、間接的に影響を与えたと推測できます。
例えば、アフラ・マズダの「善」、「光」という性質、そして「目に見える世界と目に見えない世界の2元論」は、プラトンによって哲学化されたと言えるのではないでしょうか。
また、世界の理法「アシャ」は、ギリシャではヘラクレイトスやストア派哲学、キリスト教の「ロゴス」に影響を与えたと思われます。
また、アフラ・マズダの「無限光」としての性質は、仏教の仏、「アミターバ(無量光仏=阿弥陀仏)」などに影響を与えました。
また、善思・善語・善行の3徳は、おそらく密教の「3密(身・口・意)」に影響を与えたでしょう。
密教では意・口・身の順で重視されて、これはアストラル体・エーテル体・肉体と神秘主義的な階層と対応しています。
これに対して、ゾロアスター教で行・語・思の順に重視されたことは、ゾロアスター教の現世的な性質を示しています。
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