ストア派

ストア派はヘレニズム期を代表する哲学です。
ストア派の哲学者の多くはオリエントの出身者で、多分ズルワン主義の影響を受けてギリシャ哲学の延長線上で表現を行いました。



ストア派を始めたのは、キプロス島出身でフェニキア系のゼノン(紀元前4-3世紀)で、彼はアテナイで活動しました。
その後トルコのタルソス出身のクリュシッポスによってストア派哲学は体系化されました。
さらにバビロニア出身のディオゲネス、ローマ最高の占星学者と呼ばれ、シリア出身でロードス島で活動したポセイドニオスらによって様々に発展させられました。


よくストア派は禁欲主義、エピクロ派は快楽主義として対比されますが、どちらも、間違った思い込みによって煩わされず、自然(神の摂理)と調和した精神的な平安を求める点で共通しています。


ストア派の宇宙論はヘラクレイトスと似て、至高存在を「技術的(創造的)な火」と呼び、同時にそれを「ロゴス」と考えました。
これらは神的で知性的で、諸元素に変化して、やがてまた「技術的な火」に戻るのです。
宇宙は収縮によって生まれ、やがて空虚に広がりながら燃焼して消滅して「技術的な火」に帰します。
宇宙はプラトン年(2万6千年)かかってこの生滅を繰り返します。


宇宙の構造は、月下の世界は4大元素が層状をなしていますが、その上の恒星天にはアイテールがあります。
恒星天には世界霊魂の指導的部分が存在します。
ストア派はこのアイテールをほぼ「技術的な火」と同じものと考えました。


ですが、ストア派の特徴は、「技術的な火」と「ロゴス」を世界に超越せず、内在するものと考えたことです。
「技術的な火」、「ロゴス」は能動的な原理として、受動的な素材の中に胎児・精子として内在して成長する創造的な存在です。
そのため、「ロゴス」は「種子的ロゴス」とも表現されます。


そして、世界の存在はそれぞれに内的な「緊張(トノス)」を持っています。
つまり、静的な形・性質ではなくて、生きた運動性を持っていると考えたのです。


ストア派は、鉱物は構造、植物には成長、動物には霊魂、人間には知性という階層性の本質の違いがあると考えます。
そして、この違いは、形・性質のレベルの違いではなく、「緊張」の度合いの違いなのです。


また、存在は「プネウマ」によって統一体として存在します。
「プネウマ」はほぼ「霊魂」と等しい存在で、火と空気の中間的な存在です。


アリストテレスにとって重要なのは、個物の中にある普遍的な本質である形・性質であって、認識とはその本質を感覚を通じて理解することです。
ですが、ストア派にとっては、個物はそれ自身の固有性と個性を持ったもので、普遍とは単に言葉でしかありません。
そして、認識とは、内的緊張を持った霊魂が、内的緊張を持った対象の個物と交流を持って、影響を受けながら発展し、対象と調和し、「共感」するとなのです。


つまり、ストア派は、認識を相互生成的な運動として考えたのです。
宇宙ではすべてがすべての中にあり相互作用する連続して一体の存在なのです。
この発想は、ほぼ同時代の仏教の『華厳経』やプロティノスの思想と共通しています。


アリストテレスは、「AはBである」という命題を重視して、述語の中で、最低種概念だけを実在的なものとして重視し、それ以外の一切の様々な性質を軽視しました。
これに対して、ストア派は、「AはBした」という出来事を重視しました。


つまり、世界は最低種概念に枠づけられた存在としてではなくて、無限に多様化する出来事として捉えられるのです。
現代の哲学者ドゥルーズはこの点で、ストア派が静的なプラトン、アリストテレス哲学を否定するものだとして評価しました。


ストア派は自然の運動には神の摂理(運命)があると考えました。
そして、この自然の摂理を認識して、これに従って生きることを理想と考えました。


この摂理は「ロゴス」でもあります。
ロゴスは知性的な存在ですが、ストア派は感情などの肉体的な要素をプラトンのように非知性的な存在として否定しません。
病的・倒錯的な状態になって知性やロゴスに反するようになった感情だけを否定しました。


また、ストア派は、プラトン同様に、天の星の世界は秩序に満ちた世界で社会や人間のモデルとなるべき存在と考えました。


プラトン、アリストテレスといったギリシャ本土の哲学が形・性質を重視したのに対して、ペルシャ、バビロニアなどのオリエント色の強かったストア派とソクラテス以前の哲学がともに「生成」を重視したことは興味深く思えます。
生成と肯定の哲学を展開したニーチェが、ゾロアスターを主人公にした書を著わしたことも不思議ではありません。

(ストア派の存在の階層)
技術的な火=ロゴス=摂理(運命)
内在的・種子的
アイテール
プネウマ=魂
 人間 
 動物 
 植物 
 鉱物 
空気

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