オリエント・イランからインドへの影響

インドの中世には、ヴェーダには存在しなかった様々な思想が現われています。
これにはアレキサンダー以降の相次ぐオリエント勢力の侵入によるヘレニズム文化の影響があると思われます。
この影響は実証することはできませんが、影響があったと考えるのが自然です。
特に、西北インドの仏教へのペルシャ思想の影響は大きいはずです。
7Cにはペルシャ帝国が滅亡して多くの亡命者がインドに来ています。


詳細は省きますが、ヘレニズム文化の影響が考えられるものを列記しましょう。


生滅を繰り返す宇宙というバビロニアの循環宇宙論の影響が、プラーナ以降のヒンドゥー教と小乗仏教の宇宙論に見られます。


また、これと関係するのが、初期のズルワン主義にあった循環する宇宙の3つあるいは4つの時期とそれに対応する神という考え方です。
この影響を考えられるのが、ヒンドゥー教の「創造・維持・破壊」という3つの時期と、それに対応する神の3位一体説「トリムルティ」(ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァ)です。
「トリムルティ」はミスラ教の3位一体「ミスラ・アフラマズダ・アナーヒター」or「ミスラ・アザゼル・ソフィア」を元にしているのでしょう。
イスマーイール・パミール派がズルワン主義とヒンドゥーの習合を進めたようです。


仏教にも3つの時期に消滅期を加えた宇宙の4つの時期という考え方があります。
密教の法身の3段階「自性清浄身・客塵清浄身・智法身」や、ゾクチェンの「本体・自性・エネルギー」の3元論も、トリムルティの影響を考えることができます。


無限時間の神ズルワンの影響を考えられるのが、シヴァの別名マハーカーラ、シヴァの妃カーリー、阿弥陀仏の名であるアミターユス(無量寿如来)、最後の仏教経典の守護尊カーラチャクラ(時輪仏)などです。
これらはどれも時間と関係した神仏です。


光を重視するペルシャの宗教、具体的には光の神アフラもしくはミトラの影響を考えられるのが、ヴィシュヌ、大日如来、阿弥陀仏のもう1つの名であるアミターバ(無量光如来)です。
また、ゾクチェンでも存在の階層を光の階梯として考えます。


また、オリエントの5大元素の影響と考えられるのが、ヴェーダーンタ、サーンキア哲学と仏教の5大元素です。
ただ、インドでは微細な元素と粗大な元素の両方を考えます。
ちなみにヴェーダの考え方は火、水、食物の3大元素でした。
また、ズルワン主義でアフラマズダが5大元素に対応する5大天使を集めて原人間になったことは、「金剛頂経」以降の5仏を中心とした5部体系に影響を与えた可能性があります。


ゾロアスター教の救世主のサオシャントや救世主ミスラの影響を考えられるのが、ヒンドゥー教の救世主カルキと大乗仏教の菩薩、特にマイトレーヤ(弥勒菩薩)です。
「カーラチャクラ・タントラ」にもカルキは登場し、最終戦争というテーマもあります。


ゾロアスター教の3徳「善行・善語・善思」の影響も考えることができます。
仏教とジャインナ教では「身・口・意」と表現され、これがカルマとの関係で分析されました。
また、密教では「身・口・意」が3密として、成仏の3つの方法論と考えられました。


また、仏教の本初仏である「金剛薩埵」にはヘラクレスの影響が考えられています。


仏教最後の経典「カーラチャクラ・タントラ」は、ミスラ教系の占星術・神智学と、インドのタントリズムを統合したもので、中世インド神智学の最終完成形です。


また、神への絶対的献身を中心とするインドのバクティ思想は、スーフィズムの影響で生まれました。
シク教もスーフィズムとヒンドゥー教の統合・普遍化として生まれました。


また、いくつかの時代に、太陽信仰や占星術を特徴とするミスラ教系のマギがインドに入り、バラモン(マガ僧)と呼ばれるようになっています。
インド占星術の最大の古典である「ブリハット・サンヒター」(6C)を書いたヴァラーハミヒラも、「ミヒラ」はミスラの中世語である「ミフル」由来であり、マガ僧です。

この記事へのコメント