鍾呂派の内丹法

五代の10C頃、伝説的な隠者の鍾離権と呂洞賓(798-)を奉じる「鍾呂金丹派」とい内丹派が生まれました。
鍾呂金丹派は、内丹の行法を、最初に確立した内丹派で、後代の内丹に大きな影響を与えました。

この派の内丹に関する有名な書には、二人の名による「霊宝篇」、「霊宝畢法」や、呂洞賓の弟子の施肩吾による理論中心の「鍾呂伝道集」などがあります。

「鍾呂伝道集」は、次のように18章から構成されています。
真仙論、大道論、天地論、日月論、四時論、五行論、水火論、竜虎論、丹薬論、鉛汞論、抽添論、河車論、還丹論、煉形論、朝元論、内観論、魔難論、証験論。

「霊宝畢法」は宋代の書で、具体的な行法が説かれており、次の10章で構成され、それが、内丹行法の10段階になっています。
10段階というのは、受胎から出産までの10か月に合わせているのでしょう。

そして、10段階が大きく3乗に分けられています。
小乗は、長寿を得て「人仙」になる段階、中乗は不老不死になって「地仙」になる段階、大乗は昇仙して「天仙」になる段階です。

具体的には下記の通りです。

・小乗
第一:匹配陰陽、第二:聚散水火、第三:交媾龍虎、第四:焼煉丹薬
・中乗
第五:肘後飛金晶、第六:玉液還丹、第七:金液還丹
・大乗
第八:朝元煉気、第九:内観交換、第十:超脱分形


<陽気陰液循環相生説>

鍾呂派では、「陽気陰液循環相生説」と基本としています。
陰陽五行説に基づいて、天の気の循環、身体の気の循環に合わせて、内丹の行を行うものです。
年周期、日周期の循環を、八卦の周期として捉え、五行に対応する五蔵の気の動きを利用します。
つまり、どの季節、どの時間に、どの行を行うかが決まっています。

陰陽五行説では、陰が極まると陽が生じ、陽が極まると陰が生じます。
陰には液、陽には気が対応するので、液から気が、気から液が生じることになります。

五臓では、陰には肺、陽には肝が対応します。
また、地つまり陰には腎が、天つまり陽には心が対応します。
腎には水=液があり、心には火=気があります。

つまり、下記のような対応関係になります。

・陰:液:肺…地:腎:水
・陽:気:肝…天:心:火

心臓の気と、腎臓の液を混ぜることで、陰陽を相生させる、陰から陽を生み、陽から陰を生むようにするということです。
これが自然の創造の原理であって、胎児が生まれ育つことの再現になります。


<具体的な行法>

具体的な各段階の方法について、簡単に説明します。

・第一:匹配陰陽

基礎である「築基」の段階で、「気を閉ざして液を生じ、液を集めて気を生じる」と表現されます。
天地の気を吸収し、「元気」を少しだけ吐き出し、この二気を合わせ、気を蓄えることで、「液」を生じさせます。

・第二:聚散水火

導引、按摩、津液(唾液)を飲み込む嚥津法を行い、「心火」(心臓の温かい気)を下し、膀胱の気を上昇させ、腎蔵の気の火に合わせて、下丹田を温める。

・第三:交媾龍虎

「腎水」と「心火」を合わせて、上昇・下降させます。
上昇した陽が極まると陰を生じて下降する、下降した陰が極まると陽を生じて上昇すると考えます。

「腎気」は、「真水」ですが、陰中の陽、「一陽」、「臣火」であり、「嬰児」、「虎」と表現されます。
膀胱から「民火」が上昇する時、この「臣火」=「虎」を心臓に上げて、心臓の「君火」と合わせます。
すると、心臓の陽が極まって陰=「液」を生じますが、これを「タ女(タは女偏に宅)」、「龍」と表現し、これを下降させます。
そして、黄庭で「真気」が発生する時に、心臓の上、肺の下で「竜虎」を合わせます。
この「竜虎」を合わせたものを「黄芽」とも言います。
これを、「下丹田が中丹田へ返る」と言います。

「龍」と「虎」を生むことを「採薬(離卦採薬)」と言い、これを合わせることを「採合」と言います。

・第四:焼煉丹薬

黄庭に意識を集中して気を温めます。
これを、「勒陽関(乾卦勒陽関)」と言い、「中丹田が下丹田へ返る」とも表現します。
中丹田と下丹田の間、五臓のルートを中心に気を回すので、これを「小河車」と表現します。

これを続けて100日経つと、「薬」は完全になります。

・第五:肘後飛金晶

「肘後」は、脊髄に沿って体の背面を走る「督脈」のことです。
「金晶」は竜虎が合わさったものことで、これを督脈に沿って脳に上昇させ、三関を突いて頭頂の泥丸に入れます。
これを「下丹田が上丹田に返る」と表現します。
下丹田と上丹田の間で気を回すので、これを「大河車」と表現し、「小周天」とも言います。

これを200日続けると、「胎」は堅くなります。

・第六:玉液還丹

「玉液」は、気を煉って竜虎を交えた後、舌の下に生じる甘い唾液(津液)のことです。
この「玉液」を飲み込んで中丹田から下丹田に入れて、(金)丹に合わせることを、「玉液還丹」と呼びます。

その後、「玉液」を、これを下丹田から手足に流して煉ると白くつややかになりますが、これを「玉液煉形」と呼びます。

・第七:金液還丹

「金液」は、腎気と心気を合わせて、肺に入れて生まれる肺液のことです。
これを下降させて下丹田に入れるのが、「金液還丹」です。
その後、上丹田に上げます。
下丹田・黄庭に入れて、「金液」が丹になるので「金丹」と言います。

これを300日ほど続けていると、「真気」を生じる「大薬」になります。
「大薬」になってからの「大河車」は「大周天」と呼ばれます。

その後、これを下丹田から手足に流すことを、「金液煉形」と呼びます。

・第八:朝元煉気

天地人体の気の動きに合わせて丹を煉ります。
「四季煉気法」では、季節ごとにバランスをとって、五臓各所の気を煉ります。

聖胎で五臓を煉ると陰気が消えて、神々が顕現し、「陽神」が上丹田へ上りますが、これを「五気朝元」と呼びます。

また、中丹田の陽気と、下丹田の先天の陽気と、金丹を上丹田に上らせますが、これを「三花朝元」と呼びます。
この時、身体が純陽になって、「陽神」は不老不死となります。

・第九:内観交換

「内観」は、無心の瞑想によって、気・丹を煉ることです。
魔境(妄想・幻覚)が起これば、「焚身」と言って、魔境を無視して、気で火を起こし上昇させます。

・第十:超脱分形

「内観」していると、真気が昇天し、体が空中にあるよう感じ、美しい風景が出現するようになります。
これを「陽神出頂」と言い、陽神は、嬰児の姿をしています。

精神的な到達で見るヴィジョンではなく、生み出した不死の気の身体と共に、肉体を離脱し、昇仙するのでしょう。

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