神智学の人類発生論と堕天神話

神智学の生命発生論と地球進化系」の地球の発生までの歴史から続いて、この項では、ラヴァツキー夫人の主著「シークレット・ドクトリン」を中心にして、地球における人間の進化のプロセスをまとめます。


<根幹人種と大陸>

天体Dである地球期は、7つの根幹人種の時代を進化します。
現在の我々は、5番目の後アトランティス時代に第5根幹人種としています。

各根幹人種の時代の初めには、新しい大陸が生まれます。
第5根幹人種の大陸は、ヨーロッパ、及び、アメリカです。

(根幹人種) (時代・大陸)
第1根幹人種 不滅の聖なる大地
第2根幹人種 ハイパーポーリア
第3根幹人種 レムリア 
第4根幹人種 アトランティス 
第5根幹人種 後アトランティス(ヨーロッパ、アメリカ)
第6根幹人種 第6大陸
第7根幹人種 第7大陸

大陸と人類を結びつけた進化論には、ファーブル・ドリヴェの影響があるでしょう。
彼は、レムリアやアトランティスについても語っていますし、「ハイパーポーリア」という大陸名は、彼が出典であると思われます。

それぞれの根幹人種は、特定の惑星の影響下で逆進化・進化します。
また、最初に、過去のラウンドの逆進化・進化を繰り返します。

ブラヴァツキー夫人は、7つの根源人類に関しては、ヘルメス文書の「ポイマンドーレス」やバビロニアの創世伝説の「7人の原人」、「ヴィシュヌ・プラーナ」の7マヌ(14マヌ)、カバラのエドムの7王が、それを伝えていると言います。

各時代に、新しい大陸が現れることは、「ヴィシュヌ・プラーナ」で、ブラフマー神が覚醒するたびに大陸を海から引き上げて、そこに7つの洲を作った神話の影響も見つけることができます。


<第1-2根幹人種>

第4ラウンドに入った地球は、最初に、太陽に「高級自我」の3複体となる「火」を分け与えて欲しいと願いましたが、太陽は時がきたら与えると約束しました。
地球は、動物界までは独力で作ることができますが、人間は「火」がないと作れません。

地球は自力で生命を進化させましたが、奇形な生物しか生まれず、絶滅させられます。
そのため、地球は、前の月連鎖で高い進化をした「月の主達(ピトリ、月の先祖達)」の助けを借りて、第1根幹人種を生みました。

第1根幹人種は、肉体のないエーテル体存在で、性別はなく発芽するように自生する存在でした。
大陸は「不滅の聖なる大地」と呼ばれる特別な大陸で、物質界になく、ラウンドを通して不滅でした。
そして、第1根幹人種には「死」はなく、第2根幹人種に吸収されて使命を終えました。

第2根幹人種は、雌雄同体で、「汗から生まれた」と表現されるように、母体から押し出されるようにして生まれました。


<第3根幹人種>

第3根幹人種はレムリア人で、金星の影響下に進化しました。

第3根幹人種は、「智恵の主達」と呼ばれる「クマーラ」達が転生できる体を思念の力で作り、「意志とヨーガの子達」と呼ばれる現在のマスターの先祖を生み出しました。

第3根幹人種は、骨を持つ存在となり、卵生で両性具有でしたが、徐々に男女の性別に分離していきました。

「クマーラ」は、「ヴィシュヌ・プラーナ」で語られるブラフマー神の息子で、子を産まない清浄な少年神的存在です。

前の連鎖である月で進化した「月の主達」には7クラスの存在がありましたが、その中で高位の「アグニシュバッタ達」は、「高級自我」を持っていました。
彼らは第3根幹人種の中への転生をすることを求められていたのですが、自分たちは「自由意志」を持っていることを意識して、転生を嫌がり、拒否しました。

これは、一種の反乱で、「ヴィシュヌ・プラーナ」では、彼らは「阿修羅(アスラ)」に当たります。

一方、下位のクラスの「バルヒシャド達」は、「高級自我」を持っておらず、転生しました。
ですが、人間に転生した彼らは、動物とも交わって半獣半人、巨人族を生み出して、進化に逆らって堕落してしまいました。
ですが、彼らにはまだ知性も自我もないので、責任は問えません。

子を産む「バルヒシャド」は、「ヴィシュヌ・プラーナ」では、ブラフマー神が子孫を残す息子として生んだ、「プラジャーパティ」に対応するのかもしれません。

それで、第3根幹人種の中頃に、金星から「炎の主達」と呼ばれる神的存在達が到来し、人間の「メンタル体(マナス、心、知性)」を形成しました。
「神智学大要」によれば、金星は太陽系の進化系で最も進化していて、現在、7ラウンドにいます。
「炎の主達」とは、「世界主」と呼ばれる「サナート・クマーラ」をトップにした、地球を指導する集団で、「大白色同胞団(シャンバラ・ハイアラーキー)」と呼ばれるようになります。

「シャンバラ」は「ヴィシュヌ・プラーナ」では、単に救世主が生まれる村の名前です。
ですが、「カーラチャクラ・タントラ」とそれを継承したチベットでは、救世主にもなる聖王が治める国です。

「炎の主達」は、一つの「進化系」で一度のみ、霊的存在が下降しきって上昇に転じる宇宙的転換点に、つまり、第4連鎖、第4ラウンド、第4天体のDの、第4根幹人種の時代を前に到来します。

そして、「メンタル体(マナス)」を形成して、「モナド」を内包する「高級自我」の3複体が人間に転生する準備を完了しました。


<第4根幹人種>

次の第4根幹人種のアトランティス人は、月と土星の影響下にあり、ちょうど下降から上昇への、逆進化から進化への転換点の存在です。
彼らは今の人間に比べると巨人でしたが、言葉を発達させました。

第3根幹人種に「メンタル体」が作られたことによって、第4根幹人種に、「智恵の子達」と呼ばれる「アグニシュバッタ」達が、人間に転生し始めました。
実際には、第3根幹人種の最後の亜人類の時からですが。

これによって、人間は知性と自我と自由意志を獲得し、「知恵の木の実」を食べたのです。
ですが、先に書いたように、人間は堕落を経験していたため、彼らはその悪いカルマの影響を受けました。
「アグニシュバッタ」達は、本来、もっと早く人間に転生すべきと定められていたのですが、それに反逆した結果、人間の体を汚してしまったのです。

こうして、人間の「心」は、動物的な欲望に従属し、物質的な下降を志向する「低位マナス」と、「ブッディ(霊的直観)」に従って上昇を志向し、物質的な部分を従属させる「高位マナス」とに分裂してしまいました。
そして、前者が優位な「光の子達」と、後者が優位な「闇の子達」の戦いが始まりました。

そして、アトランティスでは、「闇の子達」が利己的に魔術を使用するようになりました。


<堕天使と悪魔の神話>

ブラヴァツキー夫人は、第3根幹人種の時代に、「モナド」が「高級自我」として人間に下降したことは、「ルシファー」の転落の神話として表現されたと言います。
「高級自我」を持つ「アグニシュバッタ」達が、自由意識から反逆したことは、「天使の反乱」の神話に当たります。

夫人は、「シークレット・ドクトリン」とは別の文書で、「アフラ・マズダ」が第4根幹人種の「メンタル体」になった神であるとも書いています。
ミトラ教の伝統では、「アフラ・マズダ」は「原人間」であり、「光のかけら」となって地上に落ちた存在です。

また、夫人は、「サタン」と「サマエル」を同一視し、本来は「霊智(ブッディ)」である、至高の神なる「霊」であるとも書いています。

そして、「ルシファー」=「サタン」は、「知性の啓明」、「自由」、「思考」の霊、高みにおいては「ロゴス」であり、最低においては「敵対者」として、自我に反映されると書いています。
また、堕天使とされる「アザゼル」は霊的なものと魂の葛藤を象徴する存在であるとも書いています。

つまり、「モナド」である「ルシファー」=「アザゼル」が降下して、「低位マナス」として物質に染まった部分が、「サタン」、「アーリマン」などとして表現されるようになり、染まらずに純粋な部分は「アフラ・マズダ」と表現されるのです。

そして、「光の子達」と「闇の子達」の戦いは、「インドラ」と「阿修羅」の戦い、「ミカエル」と「サタン」の戦いという神話として語られるようになったのです。

ですが、ブラヴァツキー夫人は、カバラの「数の書」では、「サムエル」、「サタン」と「ミカエル」が同一の存在であることが示されていると書いています。

ブラヴァツキー夫人は、キリスト教系の堕天神話と、神や神的な「原人間」の犠牲的な死によって人間の魂が生じたとするイラン系、グノーシス系、オルフェウス=ディオニュソス系の救済神話が、同じ一連の出来事の反映であり、同じ意味を持っていると理解しました。

ブラヴァツキー夫人は、以上のような理解を「秘教教義」の核心、「秘教」たる部分であると考えました。

つまり、本来、ロゴス的、神的、叡智的存在であり、人間に自由意志をもたらすために人間の中に入った存在を、キリスト教などの顕教がそれを歪めて、堕天使、悪魔、悪神と見なしたのであると。
「堕天使」は「堕天」したではなく進化のための受肉したのであり、「悪魔」は絶対的な神の敵対者ではなく、智恵に目覚めれば、叡智としての本来の姿を見せる存在であると。

マズダ教は「アーリマン(=アザゼル)」を悪神化しましたが、ミトラス教やミール派イスラム(シーア派ミトラ神話)は、「アーリマン」が第一天使に復活したことを「秘密教義」としました。
神智学は、この思想を継承しています。

ただ、堕落と人間の自由意志を結びつける思想は、ベーメやスウェデンボルグにもあります。


<第5-6根幹人種>

現在の第5根幹人種は、「アーリア人」と表現されます。
ですが、ブラヴァツキー夫人は、この言葉を現実の白人種のアーリア人とは違う意味で、現在の人類を総称する意味で使いました。
しかし、後継者は、必ずしもその意味で受け取りませんでした。

第5根幹人種は、水星の影響下にありますが、水星はミトラや仏陀の智恵の惑星とされます。

神智学は、第5根幹人種を教化するために、イエスに「世界教主(キリスト)」のマイトレーヤの霊が宿った(オーバーシャドウした)とします。
イエスは死後、マスターとして大白色同胞団に参加しました。

ですが、イエスはそれ以上に特別な存在ではありません。
「世界教師」は大白色同胞団(ハイアラーキー)の役職名で、マイトレーヤはクリシュナやゴータマにも宿りました。

ですが、第5根幹人種は、アトランティス人の歪んだ記憶が潜在意識に残ったため、キリスト教などが、「ルシファー」などを悪魔視し、秘教を弾圧するようになってしまいました。


第5根幹人種の亜人種とその文化については、ブラヴァツキー夫人は「シークレット・ドクトリン」でははほとんど述べていません。

ですが、アディヤール派の「神智学大要」によれば、現在の我々は、第5番目のチュートン亜人類の時代にあります。
ですが、すでに第6亜人類は、オーストラリア、アメリカに生まれつつあるとします。
彼らは、直観と叡智を発達させる使命があります。

(7つの亜人種の時代)
1 ヒンドゥー
2 アラビア
3 イラニア
4 ケルト
5 チュートン
6 オーストラリア、アメリカ
7 第7亜人類

第6根幹人種は、アメリカ人がもとになって生まれますが、リードビーターによれば、対応する新大陸が生まれる前には、カルフォルニアに拠点が作られます。

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