創造神話・宇宙論・救済神話・哲学からの神智学の誕生

「神智学」は、歴史的に言えばオリエントで生まれ、ヨーロッパ、インド、中国など、各地の思想・宗教に影響を与えました。


「神智学」の本流は、エジプトやシュメールに始まる都市国家・神殿国家の「創造神話」を、バビロニアに始まる占星学的「宇宙論」によって解釈し、ペルシャのゾロアスターに始まる啓示宗教の「救済神話」と合体し、さらにギリシャに始まる「哲学」的思考による抽象化を経ることで生まれました。


それぞれの原型的な要素はBC5Cには存在しましたが、実際にはこれらはヘレニズム期を通して様々に組み合わされて統合されていきました。


エジプトやメソポタミア(シュメール、バビロニア)、インド、ペルシャ、ゲルマン、ギリシャ、中国、日本などの神話は、その民族系統(語族)が異なるにも関わらず、とても似ています。
歴史は、気候の乾燥化によって北方の遊牧民が大河の農耕文化へ流入することによって始まり、騎馬戦術の発明と共に遊牧民がユーラシアのほぼ全域で支配民族となっていますので、彼らの果たした役割が大きいのかもしれません。
遊牧民は、遊牧移動の必要上からの父権的な強力なリーダーシップと、諸民族との交流支配から生まれた普遍志向、垂直志向、善悪2元論、などを特徴とします。


このブログでは、上に書いたような都市国家や神殿国家レベルの文化によって作られた創造神話から共通する構造を抽出して、これを簡単に「創造神話」と書き表します。
これは、世界神話学では「ローラシア型神話」と呼ばれる、西アジアを中心にユーラシア全体に広がった神話群の発展形です。
「創造神話」は世界創造を無秩序から秩序が形成される過程を、神の系譜や、主神交代によって物語ります。
そして、ここには、文化秩序の確立や、意識の確立の過程が象徴的に反映されています。


神の系譜は、

 「原初の水・深淵・混沌・暗黒」
 →「宇宙卵・原初の丘(蓮)・風」
 →「創造神・光の神」
 →「光・天の素材神」/「闇・地の素材神」
 →「天神」/「地神」
 →「主神(嵐神など)」

となります。


世代を経過するごとに強力な神が生まれて、旧世代の神々が引退していき、主神に至るのです。


そして、この秩序化を妨害する悪的な存在があります。
秩序化を引き戻す原初の混沌的存在(大母神)や、彼女から生まれた「竜神・怪獣・巨人」です。
大母神は創造の母体であると同時に創造を混沌に引き戻す存在でもあるのです。
ですが、主神はこれらを退治して、その身体から天地や人間を作ります。


他のページで紹介するように、この「無秩序(混沌)からの創造」を語る「創造神話」は、「至高存在からの創造」を語るものへと再解釈され、神学、神智学化していきました。


バビロニアで生まれた占星学的な「宇宙論」は、天体の運動や位置関係などの観察を基に宇宙の階層構造を発想したものです。
この占星学的な「宇宙論」は、世界中に影響を与え、神話や神々もこれに対応させて解釈されました。
このサイトではこれを簡単に「宇宙論」と書き表します。


「宇宙論」の階層は、上層から下層へと順に次のようなものです。

 宇宙創造以前の「神的世界」
 →「宇宙の原素材圏」
 →「恒星天(ほとんど沈まない星々である大熊座7星→沈む星々である12宮)」
 →「7惑星天」
 →「月下界」
 →「地上」

です。


「創造神話」の神々はこの「宇宙論」の諸天球などに対応させれらました。
また、他のページで紹介しますが、地球の地軸の回転(歳差運動)から宇宙は生滅循環するものと考えられました。


世界最初の強大帝国であるペルシャ帝国を背景に広がったゾロアスター教から、世界宗教、啓示宗教が始まります。
ゾロアスターから始まる啓示宗教の神話は「堕落・救済神話」と表現できます。


この神話はミトラ教、マニ教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教、道教などに影響を与えました。
このブログでは、その基本的な構造を抽出してこれを簡単に「救済神話」と書き表します。
「救済神話」は人格神的な善悪2元論の構造、終末にいたる時間軸を持っていて、本来的に神的だった人間の霊魂の堕落と救済を物語ります。


「救済神話」は「創造神話」を変形して生み出されました。


まず、「光の至高神」から「善神」と「悪神」が生まれます。
創造神話の原初の混沌の大母神は純粋な闇の悪神となったのです。


次に「至高神」は「創造神」を生んで「悪神」を閉じ込めるために宇宙を創造し、神的な「原人間」を生みます。
ですが、「悪神」が宇宙を破壊し、「原人間」を殺した結果、「原人間」の堕落した一部を霊魂として持つ人間が地上に生まれます。


「善神」は「宇宙守護神」を派遣して「悪神」を撃退し、「預言者」を地上に派遣して、宇宙と地上に秩序を形成します。
その後、終末に「救世主」と「真理の霊」を派遣して「悪神」を滅ぼして人々を救います。
こうして神的な世界を築いて人々は不死を獲得します。


この「救済神話」の物語の登場人物や場所は、「宇宙論」で語られる宇宙の諸天球に配置され、再解釈されました。


そして、「哲学」は、ペルシャ帝国に接するトルコのギリシャ植民地で初めから神智学として生まれました。
神智学的哲学は、創造神話、救済神話、宇宙論などの影響を受けながら、その抽象化を進めました。


宇宙創造を時間的な過程ではなく、無時間的な関係として考えることに至ります。
そして、存在を「素材/形・性質」あるいは「現実態/可能態」という側面から捉えることが多いのです。
また、存在の階層を神(存在者)の系譜や天球の重なりなどよりも、存在の本質的な性質、その「創造力」や「運動性」、「微細さ」、「知性」の程度の差として捉えます。


こうして、

 「一者」
 →「直観的知性」
 →「魂(世界霊魂→人間霊魂→動物魂→植物魂)」
 →「物質」

という階層が考えられるようになりました。


 

創造神話の階層
救済神話の階層
宇宙論の階層
哲学の階層

原初の水・混沌/原初の蛇
宇宙卵・原初の丘・風
創造神・光神
光・天と闇・地の素材神
天神/地神
旧主神(知恵神・生命神)
主神(嵐神)⇔悪竜

光の至高神
善神⇔悪神
創造神
(大天使)
原人間/原牛
宇宙の守護神
預言者
救世主・真理の霊
神的世界
宇宙卵
原素材(霊的火)
恒星天
7惑星天
月下界
地上
一者
直観的知性
世界霊魂
人間霊魂
動物魂
植物魂
物質

神智学とは(ソフィアとロゴス)

「神智学」の原語は、「テオソフィア(英語で「セオソフィー」)」です。
「神的な領域を探求する直観的な知恵」という意味です。


ギリシャ語の「ソフィア(知恵)」と「ロゴス(言葉・理法)」は対照的な意味を持った言葉として考えられることがあります。
ヘレニズム期の神話や神秘主義思想では、女性名詞の「ソフィア」は「神の娘」あるいは「万物の母」と考えられていて、霊的で直観的な知恵を意味します。
一方、男性名詞の「ロゴス」は「神の息子」、「万物の父」と考えられていて、宇宙の法則や言葉を意味します。

どちらも物質世界の原型となって、それを作る存在です。
ただ、ソフィアは物質世界に内在してそれを形作るのに対して、ロゴスは内在せずに超越的に物質世界を形作ると考えられる傾向がありました。
ソフィアは「母なる神」として、父なる神との間に子ロゴスを生むと考えられることもありました。
一方、女性的なものを軽視する立場では、ソフィアは魂に近い低い存在で、子なる神ロゴスを受け入れて魂の中に神的なものを育みます。


「哲学」の原語はギリシャ語の「フィロソフィア(英語で「フィロソフィー」)」です。
この言葉はギリシャの哲学者ヘラクレイトスが使い始めたと言われています。
これは「霊的・直観的な知恵を愛する」という意味です。
この知恵では、どうしても象徴的な認識、表現が重要となります。


これに対して、概念的・分析的・理性的な知恵を愛することを「フィロロゴス(英語で「フィロロジー」)」と言うことができます。
この用法は「ロゴス」という言葉をいくぶん矮小化しています。
この言葉は、哲学者であるプロティノスが悪い意味を込めて批判的に使っています。
この言葉は「学門」と訳すこともできるでしょう。


哲学が霊的・直観的な思考ならば、神(テオス)や神的なものを対象とする部分が重要です。
これは「テオソフィア(英語で「セオソフィー」、日本語で「神智学」)」と呼ばれます。
この言葉はアンモニア・サッカスの一派が使いました。


一方、神や信仰について理性的に探究する思考は「テオロゴス(英語で「セオロジー」、日本語で「神学」)」と呼ばれます。


厳密に区別すれば、「神智学」は宇宙創造以前の神統学や宇宙の外の神の世界を扱って、物質的な宇宙や魂の世界に関しては「自然学」や「宇宙論」が扱う世界です。
ただ、ここではそれほど厳密に区別しないでおきましょう。


古代の宇宙論にとって、星(天)の世界は神に近い領域でした。
ですから、哲学や神智学、神学にとって星の世界の探究は不可欠です。
星の世界の動きやその地上への影響を理性的に分析する思考は、英語で「アストロロジー」と呼ばれ、これは「占星学」、あるいは「星辰学」と訳されます。


しかし、アストロロジーは、星の世界を霊的・直観的・象徴に探究する側面が多いので、「アストロソフィー」と呼び、「星辰智学」とでも訳すこともできるでしょう。
ただし、これらの言葉は使われていません。