ミスラの顕現と救済論

ズルワン主義では、宇宙の一切はズルワンの現われです。
第1に、アナーヒターとミスラ(ミトラ)がズルワンの現われです。次に、宇宙とアフラ・マズダはアナーヒターとミスラの現われです。
そして、さらにミスラは何重にもわたって宇宙に現われて、宇宙を守護し、人間を救済します。
このミスラの現われを見てみましょう。


第1の次元のミスラは、まず、宇宙創造を行った存在です。プラトンがデミウルゴズと呼んだ存在です。
ミスラは宇宙創造後、最上層のアイテールに住みます。
この次元の2番目の現われは、霊的な生命の本質を宇宙に与える存在です。
つまり、アフラ・マズダを生み出しアフリマンを撃退した存在です。


第2の次元のミスラは、アフラ・マズダが殺害された後の宇宙を正しく導くために太陽に降りた存在です。
このミスラは「無敵の太陽」と呼ばれます。ミスラは地球に生命を与え、進化させるべく創造性を与えます。
また、地球で人間を導いた後に、ミスラはこの第2の次元の太陽に戻って「コスモクラトール(宇宙守護者)」と呼ばれる存在になります。
これが現在のミスラです。


第3の次元のミスラは、若く美しい姿で地球に降りて人間を生み出します。
このミスラは人間を導く存在です。
また、この次元のミスラは、白馬に乗って終末に救世主として現われます。
最終戦争でアフリマンの軍隊を撃退し、光のかけらをすべて救出します。
この未来のミスラをマニは「光の狩人」と呼びました。


第1の次元のミスラは、ユダヤ教に伝わって最高位の天使メタトロンとなりました。
また、第3の次元のミスラは、仏教に伝わってマイトレーヤ(弥勒菩薩)となりました。

(ミスラの現れの階層)
両性具有のズルワン第1の次元:宇宙創造神=「大いなる建築師」
第1の次元:霊的生命の創造神
第2の次元:宇宙を主宰する太陽神=「無敵の太陽」、「コスモクラトール」
第3の次元:人間の創造神、指導神=「輝く人」
第3の次元:救世神=「光の狩人」

ズルワン主義の宇宙論

ズルワン主義の宇宙論は、ゾロアスターの宇宙論とは異なります。
宇宙は完成して永遠に存在するのではなく、燃焼と再生を繰り返す循環する存在です。
バビロニアの宇宙論を反映しているのかもしれません。


宇宙には7惑星天が存在しますが、天の階層を7段階ではなくて9段階もしくは10段階で考えることもあります。
この場合、7惑星天の上に恒星天、霊的な火と原初の水、宇宙卵、そして場合によっては「宇宙の外郭を取り巻く闇の蛇」を数えることがあります。
ズルワン=ミスラ(ミトラ)の神話は、次のように惑星(バビロニアの神々)と対応しています。


まず、バビロニアの原初の真水の神アプスーはズルワンと習合しました。
この神々は宇宙のレベルでは土星として現れます。
アイテールは宇宙の最上階層であって、ミスラが本来的に住んでいる場所です。
アイテールが凝固する場所は土星です。


木星はミスラの現われで霊的生命の本質であるアフラ・マズダが本来住む場所です。
つまり、バビロニアの神マルドゥクとアフラ・マズダが習合しました。


一方、火星はアフリマンが本来住む場所で、地球の人間にはエゴイズムを生む力として働きかけます。
つまり、同様にネルガルとアフリマンが習合しました。


太陽は宇宙の中心層で、アフラマズダが原人間となった場所ですが、攻めてきたアフリマン達に破れて光のかけらとなって地球に墜ちてしまいました。
その後、ミスラが宇宙の守護と地球への働きかけを太陽で行います。
ミスラは人間が本来の霊的な本質に目覚めるように働きかけます。
つまり、シュマシュとミスラが習合しました。


金星は女神アナーヒターの住む場所で、地球の人間の欲望の浄化を行うように働きかけます。
つまり、イシュタルがアナーヒターと習合しました。


水星は地球の人間に知性を与える働きかけを行います。
ただ、ここにはアフリマンの物質を指向する力が混ざっています。


月は女神ダイアナの住む場所です。また、アフリマンが生命力ある聖なる牛を隠した場所です。
ミスラがこれを取り返して地球のために供犠とします。
つまり、月は人間が様々な神的な創造性と結びつきを持つ場所なのです。


ズルワン主義は宇宙を構成する5大元素についても語ります。
ある神話では、アフラ・マズダが5大天使を集めて原人間になりますが、この5大天使が5大元素に対応しています。


地中海世界から西のギリシャ、ヘレニズム期のエジプト(ヘルメス主義)、西欧魔術が4大元素を数えるのに対して、バビロニアから東のズルワン主義やインドでは5大元素を数えます。
5大元素は虚空(アカシア、あるいはアイテール)・火・風・水・地です。

(ズルワン主義の神統論・宇宙論)
両性具有のズルワン
====================
父なるズルワン
母なるアナーヒター
子なるミスラ
宇宙創造神としてのミスラ
====================
霊気土星天=霊的な水(アプスー)
宇宙に降り2神を生むミスラの本来の場所
恒星天=霊的な火
12の悪霊の死体
土星天=霊的な水(アプスー)
5大天使の一人の本来の居場所
木星天(マルドゥク)
アフラ・マズダの本来の場所
火星天(ネルガル)
アフリマンの本来の場所
太陽天(シュマシュ)
太陽神=宇宙の守護神としてのミスラの場所
原人間が殺害された場所
水星天(ナブー)
ティシャトリア
金星天(イシュタル)
地球霊となる女神アナーヒターの場所
月天
聖なる牛の隠された場所
====================
地上
アフラ・マズダの墜ちた場所
救世主として現われるミスラ

ズルワンの三位一体

前のページで紹介したように、紀元3世紀頃までにズルワン主義(ズルワン=ミスラ神智学)は様々な地域で様々に展開されました。
はっきりとした形で残されていませんが、その神話にも様々なヴァージョンがあったでしょう。


ズルワン主義の最初の特徴は、至高存在のズルワンから三位一体の神が現れるという点です。
元来、無限時間の神ズルワンは、「アショーカル(成長・若さを司る神)」、「フラショーカル(成熟を司る神)」、「ザーローカル(衰退・老いを司る神)」という3つの有限時間の神としての顔を持ち、有限の宇宙は9千年で無限時間に帰還して成滅を繰り返すと考えられました。
また、別の説では、ズルワンは4つの神として現れ、宇宙は1万2千年周期で生滅します。

ズルワンの3側面は、オリエントの女神の三幅対(少女神・女性神・老婆神)に類するものでもあり、後世のヒンドゥー教のトリムルティ(創造神ブラフマー・維持神ヴィシュヌ・破壊神シヴァ)の原型かもしれません。

ズルワン主義はマズダ教やミスラ教を統合する中で、ズルワンの現われである3つの神は、アフラ・マズダ、ミスラ、アフリマン、あるいはアナーヒター(アパム・ナパート)と考えられるようになりました。

初期のズルワン主義では、アフラ・マズダとアフリマンはズルワンが最初に生んだ双子の兄弟で、アフリマンはズルワンの疑念から生まれたとされていました。
そして、ミスラは後から現われて両者の戦いに終わりをもたらす神でした。

ゾロアスター教(マズダ教)は、マズダから善悪2霊が生まれるので「相対的2元論」だとしたら、初期ズルワン主義はミトラが仲介する「相対的弁証法的2元論」です。


ですが、徐々にミスラがより重要な神として考えられるようになっていきました。
完成されたズルワン主義では以下のように考えます。
無限時間の至高存在(ズルワン)が、「意志・力(ズルワン)」、「知恵・素材(アナーヒター/アパム・ナパート)」、「意識・霊的生命(ミスラ)」という3つの次元、位相として現われます。

さらに、これらが宇宙と生命を生みだします。
アフラ・マズダとアフリマンの対立は、宇宙の中でのこの霊的生命的位相での対立なのです。
ですから、完成したズルワン主義は「3位一体的相対的弱性2元論」とでも言えそうです。


           (ズルワンの現れ)
 
初期型:マズダ(善神) &アフリマン(悪神) →ミスラ(仲介神) 
完成型:ズルワン(意志)&アナーヒター(智恵)→ミスラ(意識) →マズダ&アフリマン


まず、静的な次元に留まっている至高存在は「両性具有の神ズルワン」と表現されます。

このズルワンが、核的次元であって意志的存在である「父なる神ズルワン」と、素材的で知恵的存在である「母なる女神アナーヒター」に分かれます。
アナーヒターは霊的な火であり海です。

アナーヒターに父ズルワンが意志の光を投射すると、輝く海の表面に意識的・霊的生命的存在である「子なる光の神ミスラ」が生まれます。
ミスラは創造的次元の存在で、至高神ズルワンと人間を媒介する神、契約と正義の神です。


つまり、核的存在と創造的存在の間に、女性的な素材的・知恵的存在があって、これらが三位一体を形成するのです。
この三位一体の考えは、ユダヤ神秘主義(ヤーヴェ/シェキナー/メタトロン)やキリスト教(父/聖霊/子)などに影響を与えました。


宇宙はアナーヒターに由来する素材的側面と、ミスラに由来する霊的生命的側面から形成されます。
アナーヒターはミスラの働きかけによって金色の「宇宙卵」を生みだします。
宇宙卵は2つに割れて、「霊的な火」と「霊的な水」になって、この2つは混じりあって宇宙を形成します。
これらはエジプト神話におけるシューとテフヌトに相当する存在でしょう。


次に、ミスラが自分自身の一部を宇宙に投げ入れると、これも光の部分と闇の部分に分かれて、一方は「アフラ・マズダ」に、もう一方は「アフリマン」となります。
アフラ・マズダは霊的な生命と意識の本質を形成する力で、一方のアフリマンは物質を形成する力です。
アフリマンがアフラ・マズダを攻撃したことは、物質を形成する力が生命・意識を形成する力を疎外すること表現しています。


アフラ・マズダはアフリマンによって殺害されて、「光のかけら」となって地上に墜ちます。
殺害されるアフラ・マズダは、ゾロアスター教の原人間ガヤ・マルタンに相当する存在です。
そして、この光のかけらとなったアフラ・マズダは、ゾロアスター教のフラワシに相当する存在で、霊魂に内在する神性としての「内なる神」です。


ズルワン主義を至高存在の3つの次元で考えると、両性具有のズルワンが創造の静的母体、父なるズルワンが創造的核、母なるアナーヒターと子なるミスラが創造的存在であると考えることができるでしょう。


ズルワン主義では創造を神のレベルと物質的な宇宙のレベルを分けて考えます。
そして、「宇宙卵」の象徴は宇宙の創造のレベルに現れます。
この宇宙卵は、宇宙を形成する根元的な元素「アイテール(霊気)」とされました。

次に、この「アイテール」が「霊的な火」と「霊的な水」と呼ばれる2つの元素的に存在に分かれます。
「原初の海・原初の水」の象徴は、この「霊的な水」としての宇宙のレベルと、「輝く海」である母なるアナーヒターとしての神のレベルの両方に現われます。
宇宙のレベルでの「霊的な水」は「土星天」と同一視されました。