ラヒリ・マハサヤのクリヤ・ヨガ


このページでは、ラヒリ・マハサヤが説いた「クリヤ・ヨガ」の具体的な方法についてまとめます。
また、これとは異なる方法を説くパラマハンサ・ハリハラナンダの方法についても付加します。

神人ババジによって伝授されたという伝説のもとに、ラヒリ・マハサヤが始めた「クリヤ・ヨガ」は、ハタ・ヨガの近現代における新しい運動と言えるでしょう。

インドでは、「クリヤ・ヨガ」という言葉は様々な意味で使われますが、一般に、シヴァ教系で「ハタ・ヨガ」を意味して使いますので、ババジ、ラヒリの「クリヤ・ヨガ」も、ここからきているのでしょう。

ババジ、ラヒリの「クリヤ・ヨガ」には、古典的なハタ・ヨガ系経典には書かれていない方法がいくつもあります。


<クリヤ・ヨガとは>

クリヤ・ヨガについて、ラヒリの孫弟子であるプラマハンサ・ヨガナンダは、「あるヨギの自叙伝」で、ババジが再発見した古代の方法であり、かつて、クリシュナがアルジョナに伝えたものであり、パタンジャリや、イエス、ヨハネ、パウロに知られたものと同じ科学であると書いています。

同書には、SRF出版部記として、「各個人が神を直接体験する方法を身につけることは、緊急の必要事とされている」、とも書かれています。

今日の我々から見れば、「クリヤ・ヨガ」は、単にテクニカルな「ハタ・ヨガ」なのですが、「ハタ・ヨガ」もクンダリニーもまだ知られていなかった時代に、西洋に紹介するに当たって、このような一種の神秘化、権威化がなされたのでしょう。

ヨガナンダによれば、クリヤ・ヨガは、人間の進化を急速に促進させるものであって、「飛行機による旅」に喩えられます。
そして、クリヤ・ヨガを行うことによって、過去のカルマに影響されず、死を克服することができるようになります。


<クリヤ・ヨガの準備とチャクラ>

ヨガナンダの組織SRFが説いているクリヤ・ヨガは、非公開を徹底しているため、その具体的な方法は分かりません。

また、SRFのクリヤ・ヨガは、当時の西洋人に向けたもので、ラヒリのクリヤ・ヨガをそのまま教えていない、特に第2クリヤはまったく異なるようです。

SRFのクリヤ・ヨガの実践者は多数いますので、中には漏らす人もいますし、SRF以外のラヒリ系のクリヤ・ヨガの実践者でそれを語る人もいます。

Ennio Nimisは、複数の系統を調査してHP上で公開していますので、その「Kriya Yoga: synthesis of a personal experience」(pdf)をもとに、ラヒリ流のクリヤ・ヨガについて、簡単に紹介します。
*参照 http://www.kriyayogainfo.net/

以下、間違いがあるかもしれませんし、あくまでもアバウトでこんな感じ、というふうに受け取ってください。
一般的に知られているハタ・ヨガのムドラーなどの言葉については、説明しません。

ハタ・ヨガ系の経典に書かれた方法に比較したクリヤ・ヨガの特徴は、クンダリニー覚醒のために、マントラを唱えて各チャクラを刺激する様々な方法(ソカーなど)を行いながらプラーナを移動させることでしょう。
また、脊髄(スシュムナー)に沿った経路以外の様々な経路(体外の経路、トリバンガムラリなど)を使うことです。


まず、クリヤ・ヨガの前に、次のような準備的な運動、瞑想を行います。
Ennio Nimisは、この前行は説明していませんが。

・エネルギー活性化エクササイズ
・ホーン・ソー・テクニック
・オーム・テクニック

「エネルギー活性化エクササイズ」は、体をリラックスさせる一種の体操です。
https://www.youtube.com/watch?v=W4iu8MB2Qeo

「ホーン・ソー・テクニック」は、呼吸に意識を集中し、入息で「ホーン」と無音で唱え、出息で「ソー」と唱えながら、呼吸が静まるのを観察する方法です。
一般に、「ソー・ハム」瞑想といわれる方法と、唱え方が逆です。
「ソー・ハム」は、「私はそれ(ブラフマン)」という意味です。

この時、眉間に意識を合わせて、入息の時に意識を眉間の表面から頭の深部に移動させ、出息の時にまた表面に戻します。

「オーム・テクニック」は、各チャクラを意識してオームを唱えながら、体内の内的な音を聞きます。
呼吸に合わせて、ムーラダーラから上昇、下降するのでしょう。

以下、基本的に、マントラはヴィージャ・マントラで、無発声で唱えます。

クリヤ・ヨガでは、チャクラは基本としては、6つを数えます。
頭頂のサハスラーラ(フォンタネル)は、チャクラと見なさないことが多いようです。
ですが、ハリハラナンダのクリヤ・ヨガでは、約30㎝頭上の第8チャクラ(ブラフマロカ)も重視します。

また、第6チャクラの周辺の領域に関しては、眉間表面のブルマディア、やや奥に入った部分、あるいは、頭中心部の下垂体・松果体のアジニャー・チャクラ、後頭下部の延髄(メドゥーラ)、後頭上部のビンドゥ・ヴィサルガ、をそれぞれに重視します。

ケーチャリー・ムドラーが刺激するのは下垂体です。

眉間は、霊視を行うクタシュタの場所です。
クリヤ・ヨガでは、霊視を重視しますが、例えば、眉間のチャクラのキリスト意識に集中すると、金色の光の環に囲まれた、青い円形の空間の中心で脈動する、五つの閃光を放つ白い星が視えます。

また、ハリハラナンダのクリヤ・ヨガでは、左耳上部のロウドリ、右耳上部のバマも重視します。


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*上記サイトの「Kriya Yoga: synthesis of a personal experience」(pdf)よりページの一部をキャプチャーで引用(以下同様)


<クリヤ・ヨガの本行>

クリヤ・ヨガの本行は大きく4段階で構成され、それぞれにイニシエーションがあります。

最初の段階(第1クリヤ)では、独特のプラーナヤーマを行います。

第2段階(第1クリヤ)では、いくつかのムドラーと、「ナヴィ・クリヤ」などを行います。

第3段階(第2-4クリヤ)では、「ソカー・クリヤ」と呼ばれる行法を行います。
これは、心臓のチャクラを中心に、各チャクラにプラーナを送ってマントラを唱えつつ、チャクラを活性化(解く)し、その内なる光と音を感じる方法です。
チャクラを解くというのは密教と共通する考え方です。

第4段階(第5-6クリヤ)では、「トリバンガムラリ」という経路を使って、すべてのチャクラに対してソカーを行います。


第1段階の「クリヤ・プラーナヤーマ」は、眉間に意識を置き(シャンバヴィ・ムドラー)、入息時には、ムーラダーラから延髄(あるいは、ビンドウ・ヴィサルガ)までの各チャクラで、順次に上昇して、オームを内的に唱え、出息時には、逆にムーラダーラに下降します。
これによって、脊髄に沿ったエネルギーの移動を感じるようにします。

プラーナヤーマによって、プラーナとアパーナを融合させ、また、イダとピンガラを十分に開通して、スシュムナーにもプラーナを通します。


第2段階では、マハー・ムドラ―(トリバンダを含む)、ヨーニ・ムドラー(ジョティ・ムドラー)、ケーチャリー・ムドラー(その前段階としての「タラビヤ・クリヤ」)、「ナヴィ・クリヤ」を行います。

「ナヴィ・クリヤ」は、マニプラでオームを唱える方法ですが、腹部を親指で押したり、頭部からマニプラまでの前後左右の体外の経路を通って、エネルギーを降ろしたりします。

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第3段階の第2クリヤから第4クリヤまでは、「ソカー・クリヤ」と総称される方法です。

第2クリヤは、左右の肺の上部(肩の下部)に意識を置き、左肺上部から心臓にエネルギーを導きます。
そして、ムーラダーラに降ろして、マハーヴェーダ・ムドラーを行います。

次に、入息と共に、各チャクラでマントラを唱えつつ、ムーラダーラから頭部まで上昇させます。
この時、ウディヤーナ・バンダを伴います。
そして、右肺上部、左肺上部、心臓と順に意識を移動させてマントラを唱え、心臓のチャクラを刺激します。


第3クリヤは高度なソカーで、上記の右肺上部、左肺上部、心臓部でマントラと唱えることを、頭を傾ける動きを伴って行います。
保息状態でこれを続けて、光の輝きが増すのを視ます。


第4クリヤは完成のソカーで、第3クリヤで心臓のチャクラでマントラと唱えた後、順にムーラダーラまで下って、各チャクラでマントラを唱えます。
次に、出息して、再入息時に、意識を脊髄に入れて、頭部まで上昇させます。

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また、補助的な技法として、ガヤトリー・マントラを使った「ガヤトリー・クリヤ」があります。
これは、ムーラダーラを意識してマントラを唱え、眉間に移動し、ケーチャリー・ムドラーで眉間に満月のような光を視ます。
順に各チャクラでマントラ(OM+それぞれの語)を唱え、各チャクラが5元素に対応すること意識しながら、それぞれの内的な色を霊視します。


第5-6クリヤでは、「トリバンガムラリ」という経路を使います。
これは、サハスラーラからムーラダーラまでを左右に曲がる3つの曲線でつなぐ経路(サハスラーラから左側を通って中央を交差し、右肩で反転し、心臓のチャクラを通って、左乳首下で反転してムーラダーラへ)です。

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第5クリヤには、「アマントラク」、「サマントラク」、「トリバンガムラリ・ソカー」の3つの方法があります。

「アマントラク」は、ケーチャリー・ムドラーを伴いつつ行います。
まず、入息とともに、意識(エネルギー)をムーラダーラからビンドゥ・ヴィサルガまで上昇させます。
出息と共に、トリバンガムラリに沿って意識(エネルギー)をムーラダーラまで降ろします。

「サマントラク」は、上記を、マントラを唱えながら行います。
上昇時に各チャクラで、下降時にトリバンガムラリの各ポイントでマントラを唱えます。

「トリバンガムラリ・ソカー」は、上記に頭の動きを加えます。
下降時に、トリバンガムラリがある方向に頭を傾けます。


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第6クリヤは、「マイクロ・ムーブメント・トリバンガムラリ」と表現され、ミクロなレベルでの運動を感じます。
プラーナを眉間にまで上昇させた後、ムーラダーラに見下ろして、そこに水平の円盤を視覚化して、そこに小さなトリバンガムラリの運動を感じます。

次に、同様に、順次、第2、第3という風に上のチャクラを対象にして、円盤を視覚化して運動を感じます。

次に、上記に方法に、ケーチャリー・ムドラーと、マントラを付け加えます。

以上の方法によって、クンダリニーの上昇を促します。


<ハリハラナンダのクリヤ・ヨガ>

ユクテスワのアシュラムを引き継いだパラマハンサ・ハリハラナンダの説くクリヤ・ヨガには、上記のラヒリ流の方法と異なるものがあります。
それが誰に起因するものか分かりませんが。

Ennio Nimisの資料をもとに、これを簡単に紹介します。

ハリハラナンダのクリヤ・ヨガの特徴は、頭上の第8チャクラを使うこと、チャクラを水平の円盤上に視覚化することなどです。


「クリヤ・プラーナヤーマ」は、入息時に頭頂に吸い入れ、出息時に、順次、各チャクラに移動していきます。
最初に、ムーラダーラに移動させることから初めて、順次、第2、第3チャクラと上のチャクラに移動先を変えていきます。
この時、各チャクラの音を聞き、光を霊視します。

第2クリヤは、まず、入息と共に、各チャクラでマントラを唱えながら、ムーラダーラから上昇させる方法です。
そして、ケーチャリー・ムドラーで、順に頭を傾けて、傾けた反対側(後→右→前→左)で光の下降を感じます。
最後に、出息と共に、エネルギーをムーラダーラまで下げます。

次に、上記の方法を、各チャクラの部分で、それぞれのマントラを唱えながら、各チャクラを水平の円盤状に視覚化して行います。

また、各チャクラの花弁にサンスクリットの文字を当てはめて視覚化します。

そして、ヨーニ・ムドラーを行いながら、ムーラダーラから順に、各チャクラに集中して、振動や光を霊視していきます。

第3クリヤは、頭部の前→左→後→右→前→中央にエネルギーを感じ、それぞれの場所のマントラを唱えます。


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第4クリヤは、まず、ムーラダーラのエネルギーが回転して中心に集まり、頭頂下部の円盤状の部分に上昇します。
同様に、順次、上の各チャクラのエネルギーを上昇させます。
これによって、クンダリニーの目覚めを引き起こします。

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第5クリヤは、入息と共にムーラダーラから頭上の第8チャクラ(ブラフマ・ロカ)までプラーナを上昇させ、出息と共に、ムーラダーラに戻します。

第6クリヤは、第8チャクラから小脳まで光が下りて来て、松果体で光を感じる瞑想も行います。

第8チャクラについては、そこにチャクラがあるということよりも、プラーナを頭頂から出すことに意味がるのではないでしょうか。


スリ・ユクテスワとパラマハンサ・ヨガナンダの思想


このページでは、スリ・ユクテスワとパラマハンサ・ヨガナンダの宇宙論、修道論、宗教思想についてまとめます。

中でもユクテスワの修道論は、クリヤ・ヨガの理解のベースとなります。


<ユクテスワの宇宙論>

まず、ユクテスワの宇宙論を、その著「聖なる科学」から紹介します。

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この書は、ババジから、ヒンドゥーの聖典と聖書を比較した書を書くようにと、指示されて書いたとされています。
冒頭で、「あらゆる宗教の間には、本質的な一致点があり、種々の信仰が説く心理も、帰するところは一つである」と書いています。
ですが、この書はほとんどバラモン哲学的な宇宙論を説いていて、そのほんの一部に対して、キリスト教との対応付けを行っているだけです。

至高の存在は、「フラフマン(=サット=父なる神)」と「プラクリティ(=チット=全知の知)」と「シャクティ(=アーナンダ=全知の愛)」です。

「プラクリティ」からは「聖霊(=光(クタスタ・チャイタニヤ)=生命)」が生まれ、さらにこれから「プルシャ(=神の子)」が生まれます。

ブラフマンの「サット・チット・アーナンダ」ではなく、「ブラフマン」と「プラクリティ」から生まれた「クタスタ」、「プルシャ」を、キリスト教の三位に対応させているようです。

一方、「シャクティ」からは「4つの観念」、つまり「オーム」、「時間」、「空間」、「宇宙原子=(マーヤー)」が生まれます。

次にこれらから、「チッタ(心=マハット)」が生まれ、それが磁化されて「ブッディ(理性)」と「マナス(感覚意識)」の対の磁極が生まれ、そこに「アハンカーラ(自我意識=ジーヴァ=人の子)」が宿ります。

そして、これらは、「5タットワ(=宇宙電気)」として現れ、これらから「プルシャ」の「コーザル体(根源体)」が作られます。

宇宙電気も極性を持って「3グナ」となり、これらから、「5感覚器官」、「5行動器官」、「5感覚対象」が生まれます。
この15の電気属性と、「マナス」、「ブッディ」の磁極によって、「リンガ・シャリーラ(幽体)」が作られます。

次に、「5感覚対象」から「5大元素」が生まれ、これらから「ストゥーラ・シャリーラ(物質体)」が作られます。

15の電気属性、5大元素、4つの心的要素(チッタ、ブッディ、マナス、アハンカーラ)で24の要素となり、これが聖書の「24人の長老」に当たるとされます。
これらは、「アヴィドヤー(無明)」から作られたものなので、実体のない幻であって、父なる神の観念による遊戯にすぎません。

以上のように、ヴェーダーンタ哲学とサーンキヤ哲学が折衷されていて、有神論的側面が少ないので、ヒンドゥー教というよりバラモン哲学的です。
そして、そこにキリスト教や現代科学の言葉が結び付けられています。


また、このようにして作られた世界は、14の「ブーヴァナ―(創造の次元)」から構成されています。
7つの「ローカ」と7つの「パーターラ」です。

7つの「ローカ」は、次のような階層世界・次元です。

 (ローカ)         (性質) 
・サティヤ・ローカ    :父なる神(知・愛)
・タポ・ローカ      :聖霊(光・生命)
・ジャナ・ローカ     :神の子
・マハー・ローカ     :宇宙原子
・スワー・ローカ(根源界):宇宙磁気
・ブーヴァ・ローカ(幽界):宇宙電気
・ブー・ローカ      :物質

7つの「パーターラ」は、7つの生命中枢(チャクラ)であり、聖書では、「7つの燭台」、「7つの教会」に当たるとされます。
ちなみに、アジニャー・チャクラは延髄にあります。


<ユクテスワの占星学的ユガ論>

ユクテスワは、独自の占星学的な世界観を持っています。

彼によれば、太陽は対になる天体と共に、「ヴィシュナビー」という宇宙の中心を2万4千年周期で回っています。
その軌道は、「ヴィシュナビー」との距離が1万2千年ごとに近くなったり遠くなったりしていて、それに従って、人間の徳性が高まったり、低くなったりします。

一番、徳性の低い時代が「カリ・ユガ」期、次が「ドワパラ・ユガ」期で、現在の時代は、「ドワパラ・ユガ」期に入って少し経ったところなのです。
彼によれば、現在のヒンドゥー暦は正しくありません。

また、4つのユガ期は、最下の4ローカと対応します。

 (ローカ)     (ユガ)
・マハー・ローカ :サティヤ・ユガ
・スワー・ローカ :トレータ・ユガ
・ブーヴァ・ローカ:ドワパラ・ユガ
・ブー・ローカ  :カリ・ユガ 


<ユクテスワの修道論>

ユクステルが語る修道論は、最下世界の「ブー・ローカ」から順次、上昇して最上世界の「サティヤ・ローカ」に至る道程です。

「ブー・ローカ」の物質界で、心の闇にいる者は「シュードラ(隷属する者)」と呼びます。
少し目覚めた者は「クシャトリヤ(苦闘する者)」と呼びます。

そして、心に神から送られた「聖なる愛」が芽生えてくると、サット・グル(聖なるグル)に出会うことができます。
グルを常に思っていると、堅固な求道心が起き、ヤマ(禁戒)・ニヤマ(勧戒)の「入門者」、「真の弟子」となります。
そして、8種の心のゆがみが取り除かれて、大らかな心が現れます。
「ストゥーラ・シャリーラ(物質体)」は、正しい食物・環境によって純化します。

随意神経が休むのが「眠り」であり、不随神経が休むのが「死(大いなる眠り=マハー・ニドラ)」です。
プラーナヤーマは、「大いなる眠り」による再生を引き起こし、活力を補給します。
また、プラティヤハーラは、随意神経のエネルギーを内に振り向けます。

ババジのクリヤ・ヨガにおいては、「オーム」が重視され、「プラナヴァ」とも表現されます。
ユクテスワは、「プラナヴァの瞑想」(ブラフマニダーナ)は、ブラフマンに至る唯一の道であるとも言います。

「プラナヴァ」は河の流れに似ていて、聖音を聴くことは、聖河に浸かって「洗礼」を受けることに等しいとされます。
そして、これは「バクティ・ヨガ」だとも言います。

内なる世界への門(スシュムラドワーラ)に意識を向けることができると、「プラナヴァ」が聴こえるようになります。
「プラナヴァ」の洗礼を受けると、精妙な素材でできている「ブーヴァ・ローカ」に入ることができ、「ヴィブラ(完成に近づいた者)」と呼ばれる階級になります。

この世界の「電気的な体(リンガ・シャリーラ)」は、忍耐(タパス)によって浄化し、7チャクラを通過します。

心が絶えず内なる世界から離れなくなると「スワー・ローカ」に入ります。
この世界に入った者は、「ヴィブラ(完成に近づいた者)」と呼ばれます。

この世界では、あらゆる喜び体験し、創造物(マーヤー)に関するあらゆる知識を得ます。
この世界の「磁気的な体(=心、コーザル体)」は、七色の虹(5タットワ+2磁極からなる)のように見えます。
この体をマントラによって浄化します。

次の「マハー・ローカ」は、神の世界への「門」、「ブラフマランドラ」とも呼ばれます。
この世界に入った者は、「ブラフマナ(霊性を達成した者)」と呼ばれます。
マーヤーは消滅し、聖霊の光や聖なる実体を理解するようになります。
この世界は、4つの観念(=4人のマヌ)の世界です。

次の「ジャナ・ローカ」に入った者は、聖霊によって清められた存在であり、「ジーバンムクタ・サンニャシ=キリスト」と呼ばれます。
聖霊による洗礼を受けると、マーヤーを脱し、神通力を得ることができます。
「人の子(アハンカーラ・自我)」が洗礼を受けて「神の子(プルシャ)」になるのです。

次の「タポ・ローカ」に入った者は、自己を供犠として捧げて、聖霊に溶け込みます。

最後の「サティヤ・ローカ」で、父なる神との一体化することは、「カイヴァリア」と呼ばれます。

 (ローカ)     (位階など)
・サティヤ・ローカ:カイヴァリア(父なる神との一体化)
・タポ・ローカ  :聖霊に溶け入る
・ジャナ・ローカ :サンニャシ=キリスト
・マハー・ローカ :ブラフマナ(霊性を達成した者)
・スワー・ローカ :ヴィブラ(完成に近づいた者)
・ブーヴァ・ローカ:ドヴィシャ(第二の誕生)
・ブー・ローカ  :シュードラ→クシャトリヤ→入門者


<ヨガナンダの思想>

ヨガナンダの思想は、基本的には、ラヒリとユクテスワから継承したものです。
以下、「パラマハンサ・ヨガナンダとの対話」で語った彼の言葉を中心にして、彼の思想を紹介します。

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彼の思想のキーワードであり、組織名にも使われている「セルフ・リアライゼーション」とは、「真我の覚醒」のことです。

また、サマディの種類について、「サヴィカルパ・サマディ」は、意識が無限なるものと融合する状態であり、「ニルヴィカルパ・サマディ」は、この世界で働いたり、話したり、動き回っていても、神なる覚醒を維持することができる状態である、という解釈をしています。

ヨガナンダは、「SRF」とその教えについては、次のように書いています。

「SRFは、クリシュナやイエス・キリストの原始教会によって教えられてきた原初の教え、ヨガの科学を、この世界に復活させるため、神により使われたのです」
「これは永遠なる真理の、新しい表現なのです」

ヨガナンダは、しばしばキリスト教について言及したり、聖書から引用を行いました。
彼にとっては、神の子として、クリシュナ=キリストです。
また、「キリスト意識」について、それが万物の内に偏在する聖なる意識であるとし、実践的には眉間のチャクラに感じられるといいます。

ちなみに、クリヤ・ヨガでは眉間への集中を重視します。
ここは上述した「クタスタ」の場であり、集中によって光を霊視します。

ヨガナンダは、神との関係については、情熱的なものであって良いと考えていました。

「神との付き合いは儀礼的であってはなりません。神と遊んでください。もしそうしたければ、からかいなさい。もしそうしたいなら、神をなじってもよいのです。――もちろん、いつも愛を感じながら」
「夜中に床を転げ回り、神に現れてくれるように願い、泣き叫びなさい。人は神を求めて恋いこがれなければなりません。そうでなければ神は決して姿を現すことはありません」

また、グルとの関係については、その必要性、特別性について説きました。
洗礼者ヨハネとイエスの関係もグルと弟子の関係だと言います。

「グルとの絆は、一度確立されるなら、それは今生にとどまりません。…グルとは神の叡智への道路です。神が真のグルなのです」

また、ハタ・ヨガ的な生理学については、次のように説きました。

「エゴは延髄に集中しており…脊髄は無限なるものへの高速道路です。あなたの身体は神の神殿です」
「善き想念を抱く時はいつも、クンダリニーが上昇を始めます」


また、「あるヨギの自叙伝」では、プラーナヤーマなどのハタ・ヨガ的な方法の効果について、血液中に酸素を供給し、その余分が生命エネルギーに変換されると書いています。
そして、「魂を肉体に縛り付けている呼吸という絆を解き放つことによって、ヨギの肉体寿命を伸ばしたり、意識を無限に拡大することを可能にする」のです。


また、「真のヨギは…心を常に脊髄中枢の超意識のレベルに置いて、神の意図されたとおりの人間としてこの世を生きている」のです。


マハー・アヴァター・ババジの弟子達

欧米にヨガやインドの宗教思想を伝えた有名な聖者に、パラマハンサ・ヨガナンダがいます。

スティーブ・ジョブスが自分のi-Padに唯一入れて読んでいた書籍が、ヨガナンダの「あるヨギの自叙伝」だったこと、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のジャケットにヨガナンダとその師が描かれていること、は良く知られています。

ヨガナンダの教えの中心は、伝説的な神人のババジが伝えた「クリヤ・ヨガ」です。
これはテクニカルなハタ・ヨガであり、近現代におけるハタ・ヨガの新しい運動であると言っても間違いないでしょう。

ヨガナンダは、幅広い人に向けて教えを説きましたが、具体的な「クリヤ・ヨガ」の実践方法に関しては、それがクンダリニーの上昇を目的とした難易度の高いタントラ的なものだったため、イニシエーションを含む非公開主義を徹底しました。

このページでは、まず、ババジとその弟子達について簡単に紹介します。
そして、続くページでは、スリ・ユクテスワとパラマハンサ・ヨガナンダの思想について、最後のページでは、ラヒリ・マハサヤの「クリヤ・ヨガ」の具体的な方法について紹介します。


<ババジと弟子達>

ヨガナンダの「あるヨギの自叙伝」には、ババジをはじめインドのヨギの信じがたい伝説的な逸話が溢れています。

ババジは、伝説的な不死の神人で、「マハームニ・ババジ」、「マハー・アヴァター・ババジ」などと呼ばれます。

ヨガナンダの「クリヤ・ヨガ」は、

 ババジ →ラヒリ・マハサヤ →ユクテスワ →ヨガナンダ

という継承経路で伝わりました。

ヨガナンダがアメリカに設立した「セルフ・リアライゼーション・フェローシップ(SRF)」は、「ババジのクリヤ・ヨガ」を説いている最も有名な組織です。
ですが、他にも多くのヨギ、組織がクリヤ・ヨガを伝えています。

ラヒリには多数の弟子がいましたし、ユクテスワにも多数の弟子がいました。
また、ラヒリ以外に、ババジから教えを受けたと主張する人も多くいます。
それぞれが説く「クリヤ・ヨガ」には、違いがあります。

ヨガナンダの「あるヨギの自叙伝」は、ババジについて次のように書いています。

ババジは、何千年にも渡って肉体を保持している不死身の「大化身(マハー・アヴァター)」で、彼の外観は25才くらいの若さに見えます。
彼は、数々のマスターや預言者を助け、使命を遂行させる役目を負っています。
そして、バドリナヤンに近い北部ヒマラヤの断崖に住んでいますが、少数の弟子たちとあちこちを移動しています。

つまり、神話的存在です。

また、ババジの弟子を主張する、ラヒリ以外の系列では、V・T・ニーラカンタン(1901-)、ヨギ・S・A・A・ラマイア(1923-2006)、マーシャル・ゴーヴィンダン・サッチダナンダ(1984-)らの系列がよく知られています。

ゴーヴィンダンは、その著「ババジと18人のシッダ」で、ババジを「18人のシッダ」の伝統に位置づけて、次のように書いています。

ババジは、シヴァ神の子ムルガンの化身で、将来、救世主のカルキ(マイトレーヤ)となる存在です。
また、神智学が言う「サナート・クマラ」でもあります。

ババジは、203年にタミル地方のシヴァ系寺院の僧だったバラモンの子として生まれました。
そして、「18人のシッダ」に当たるアガスティアとボーガナタルを師としました。
また、師としては、現在までの長い活動の中で、シャンカラやカビールにも教えました。


<ラヒリ・マハサヤと弟子達>

19Cにおけるババジの第一の弟子がラヒリ・マハサヤ(1828-1895)で、1861年にババジが彼にクリヤ・ヨガを伝えました。

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*ラヒリ・マハサヤ

ラヒリは出家をせずに、25年間、役人などとして働きながら、各地でクリヤ・ヨガを教えました。

ババジは実在が疑われますので、ラヒリが近代クリヤ・ヨガの起点となったヨギと言えます。

ラヒリが最初にクリヤ・ヨガを教えることを認めた一番弟子は、パンチャナン・バッタチャリヤ(1853-1919)です。

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*パンチャナン・バッタチャリヤ

彼がラヒリに弟子入りを許可された条件は、家庭を持つということでした。
彼は、アーリヤ・ミッション・インスティテュートを設立しました。

ヨガナンダの師である、スリ・ユクテスワ・ギリ(プリヤ・ナス・カラー、1855-1936)も、ラヒリの弟子の一人です。

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*スリ・ユクテスワ

西ベンガルに生まれ、キリスト教の宣教師の大学や、カルカッタ医科大学で学びました。

その後、ユクテスワは、僧院のスワミ・オーダーに入り、また、1884年にはラヒリの弟子になりました。

1894年には、ババジに出会い、彼からヒンドゥーの聖典と聖書を比較した本を書くように依頼されたそうです。
これは「聖なる科学」として出版されました。

この書では、キリスト教を秘教的に解釈して、強引にヒンドゥー教(ヴェーダーンタ哲学)との同一性を主張しています。
この考え方はヨガナンダにも継承されています。

かつて、シク教がイスラム教とヒンドゥー教を統一した時も同様で、宗教の違いを越えるには、秘教的な部分を見るしかありません。

ユクテスワは、「クリヤ・ヨガ」以外にも、ギータやウパニシャッド、インド占星学にも通じていて、ユガに関する新しい理論(人類の意識が2万4千年周期で上昇・下降する)を作りました。
また、彼は、2つのアシュラムを持っていました。

ユクテスワの弟子には、ヨガナンダの幼馴染でもあるスワミ・サティアナンダ・ギリ、ユクテスワのアシュラムを引き継いだパラマハンサ・ハリハラナンダなどがいます。
ハリハラナンダの弟子のパラマハンサ・プラジュナナンダも含めて、彼らもクリヤ・ヨガの重要な師とされます。

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*ハリハラナンダ


<パラマハンサ・ヨガナンダ>

パラマハンサ・ヨガナンダの歩みについて、「あるヨギの自叙伝」をもとに、まとめます。

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*パラマハンサ・ヨガナンダ

パラマハンサ・ヨガナンダことムクンダ・ラール・ゴーシュ(1893-1952)は、ヒマラヤに近いゴラクプールで、ベンガル人のクシャトリアの家庭に生まれました。

両親はベナレスの聖者ラヒリ・マハサヤの弟子で、師はヨガナンダが誕生した時、祝福を与え、その後、亡くなりました。
ですが、ヨガナンダは、師の写真から不思議な力を感じながら育ちました。

高校の卒業後、ベナレスのある僧院に入りましたが、そこはヨガナンダには合いませんでした。
ですが、ベナレスの街で、偶然のように出会ったユクテスワに、特別なつながりを感じ、その場で弟子になることを申し出ました。

ユクテスワは、以前からヨガナンダが幻の中で見てきた人物だったのです。
また、ユクテスワはラヒリ・マハサヤの弟子だったのですが、ヨガナンダはそれを知りませんでした。

ユクテスワは、ヨガナンダに、将来、西洋に布教することになるから、大学で学位を取るように命じました。
ユクテスワが後に語ったところでは、ババジが彼に、西洋の布教のために弟子を送ると語っていたのです。

ヨガナンダは、ある日、師に心臓のあたりを軽く叩かれて、光の海の至福に一体化する神のサマディに導かれました。

1914年にカルカッタ大学の文学士の学位を取得し、その後、正式に僧院スワミ・オーダーの僧になりました。

1917年には、「ヨーゴーダ・サットサンガ・ソサエティ・オブ・インディア」を設立しました。
そして、1920年に渡米し、「セルフ・リアライゼーション・フェローシップ」(SRF)を設立し、クリヤ・ヨガを広めることに尽くしました。

ヨガナンダの死後も、SRFは歴代の会長によって運営されていますが、ヨガナンダはSRFの最後のグルであると宣言していましたので、他の誰もグルを名乗っていません。