グルジェフのワークとムーヴメンツ

このページでは、「グルジェフの生涯と思想」、「グルジェフの宇宙論と人間論」に続いて、開放を目的とした「自己想起」などの実践的なワークについてまとめます。


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<グループとワーク>

グルジェフが教えた、修練の実践法は、「ワーク」と呼ばれます。
「ワーク」の中でも、舞踏(体操)に当たるものがあって、これは「ムーヴメンツ」と呼ばれます。

ワークは、師が指導し、グループで互いに助け合うスクールで行うことが望まれます。

グルジェフは、「自己想起や注意を促すためにありとあらゆるものを身につけてもみた。…(しかし)慣れてしまうと、すべては元のもくあみになってしまうのだった。…解決作は…一つだけあった。私の外部に、いわば「決して眠ることのない監視人」を置くことである」
と「私が存在する時にのみ生は真実である」で書いています。

つまり、常に自分を自覚し続ける「自己想起」を行うために、他者の助けとしてグループ・ワークが必要となるのです。

ワーク・グループは、互いに観察をして、「自己想起」を思い出させる役目を果たします。
メンバーは、成長するほど、他人が「自己想起」を行っているかどうかを判断できるようになるので、他人を見ると「自己想起」を思い出すことができるのようになるのです。

グルジェフは、人間は3つの世界(機能統合体)を持っていると言います。
外界の印象からなる「外なる世界」、それに対する反射運動からなる「内なる世界」、そして、その2つの要因を意図的に融合させる「人間の世界」です。
「自己想起」は、「外なる世界」と「内なる世界」を同時に意識することで、第3の「人間の世界」を生み出すのです。

ワークでは、まず、「自己想起」を行うために、エネルギーの無駄使いをやめる必要があります。
人間は、緊張、否定的感情、空想、センターの誤用などによってエネルギーの無駄使いをしているのです。
肉体的ワークの最初に必要なのも、筋肉の緊張を観察し、弛緩させることです。
無駄使いをやめることによって、余ったエネルギーを自己想起に振り分けることができるようになります。


<ワークの3種類>

ワークは大きく3つに分けることができます。

第一の系列のワークは、自分自身に関するワークです。
これは「第1のショック」を生み出すためのものだと言いです。

まず、「自己観察」を行うのですが、観察対象が動作から感情、思考に進むにつれて、「自己想起」になります。
「自己観察」、「自己想起」には、3センターすべてが関与します。
最初はその3機能を人為的に喚起して行います。

また、「自己観察」、「自己想起」と並行して、自分の習慣的な行動を変えていくことも試みます。

第二の系列のワークは、他人とのワーク、他人のためのワークです。
これは「第2のショック」を生み出すためのものだと言いです。

これは、他人との関係の中で、否定的な感情を抑制し、表現しないように心掛けます。
すると、感情の質が変化していきます。

第三の系列のワークは、ワーク自身のためのワークです。

これは、グループに対して無私の奉仕を行うもので、ある程度「人格」が縮小された後で行います。


<自己観察と自己想起>

「ワーク」の基本となるのは「自己観察」と「自己想起」です。

「自己観察」は、まず、自分を内省して、各センターの機能の区分の分析から始めます。

次に、それぞれの印象はどのセンターの働きに当たるか、そして、一つのセンターが他のセンターに代わって働こうとすることを分析します。
この時、空想と白昼夢をしっかり観察することも必要となります。

その次には、様々な習慣に気づくことが求められます。


「自己想起」は、自分の全体、真の自己を、意識することであり、常に継続して行うことが望まれます。

「自己想起」は難しいため、最初は、「自分観察」の時に、「自己想起」をしていると想像することから始めます。
この詳細については、後述します。

「自己想起」のための基本的な方法には、「注意力の分割」があります。
外部の対象への注意と、内部(反応)への注意を同時に行うのです。
そして、内外に意識を同一化しないようにすければ、「第三の世界(人間の世界)」として、「存在」、「真の自己」が現れます。


常に「自己想起」を継続することは困難で、すぐに気が散って忘れてしまうため、それを思い出したり、継続するための様々な方法があります。

「目覚まし時計」と呼ばれる方法は、何かをする時に想起を思い出すことです。
例えば、鏡を見てひげを剃る時には自分の存在を意識するとか、コーヒーカップ手に持つ時はそれを感じるようにするとか、怒りを覚えた時はそれを意識する、といった課題、ルールを決めるのです。

また、「小目標」と呼ばれる方法は、まず、簡単な目標を設定してそれをクリアするように努力するものです。
例えば、歩いてる時に、この信号からあの信号までは気を散らさないようにするといったルールを決めて、自己想起の継続の努力をします。

また、「自己想起」に関わる、基礎的なワークに、「朝のエクササイズ」があります。
これは、いわゆるボディ・スキャンで、まず、順に身体の諸部分の感覚に集中し、次に、全体に集中し、次に、聞こえるものに集中し、最後に、見えるものに集中します。

また、「就寝前のエクササイズ」もあります。
これは、その日の行動を、分単位で時間をさかのぼって思い出すものです。
覚えていない時間帯があれば、その時、自己観察、自己想起がおろそかだったことが分かります。
寝る前には、朝と同様に、ボディ・スキャンも行ってから寝付きます。


<「私が存在する時にのみ生は真実である」で語られるエクササイズ>

「私が存在する時にのみ生は真実である」に収録された講和では、いくつかの基本的なエクササイズが語られます。

最初に語られるのは、「土壌整備」と名付けられた、一連のエクササイズの最初に行うべきもので、それは次のようなものです。

まず、注意力を3つに分けて、左右のどちらかの手の人差し指、中指、薬指に集中します。
そして、その一本の中で、「感覚的に感じる」と呼ばれる身体的なプロセスから生じる結果が進行するのを体験します。
次の指では、「感情的に感じる」と呼ばれるプロセスから生じる結果が進行するのを体験します。
三本目の指では、指をリズミカルに動かしながら、同時に、連想の流れに従って数を数えます。


また、上記のエクササイズとの関係は分かりませんが、「私(真の自己)」を獲得するための「準備的エクササイズ」が2つ書かれています。

その最初のものは、次の通りです。

「私は存在する」という言葉を発して、太陽神経叢に反響が生じていると想像する。
「私は存在する」、「私はできる」、「私は望む」という言葉を発し、まだ存在していないその「味わい」を知る。

具体的に唱える言葉は、次の通りです。
「私は存在する、私はできる、私は存在する・できる」
「私は存在する、私は望む、私は存在する・望む」

「私が存在する」なら、その時初めて「私はできる」、そして、「私ができる」なら、その時初めて私は何かを望むに値する人間になる、のです。
ですが、この「存在する」、「できる」、「望む」は、人間だけが持つ7つの心的要因のうちの3つに過ぎないとされます。

第2の「準備的エクササイズ」は、次の通りです。

注意力を2つの均等な部分に分けます。
そして、まず、その一つを、呼吸のプロセスに注意し、呼吸が有機体全体に広がるまで意識します。
次に、注意力の第2の部分を脳に向けて、自動的な連想(雑念)の流れ全体から生じる微妙な「あるもの」を意識します。
次に、自己全体を想起しながら、その「あるもの」が太陽神経叢に流れ込むのを助け、その流れを感じるようにします。
すると、もはや自動的な連想が進行しなくなり、そのことに気づけます。


<ストップ・エクササイズ>

指導者が前もって決めた言葉、ないしは合図を聞いた時、その時点に行っていた動作を止め、「それまで」と言われるまで、自身を想起するのが、「ストップ・エクササイズ」です。
このエクササイズでは、意志、注意力、すべてのセンターの機能に同時に働きかける必要があります。

スクールでは、指導者に相当する者だけが、ストップをかける資格を持っています。
この停止は、普通の生活では止めない動作で止められます。

このエクササイズを行う場合、絶えず、油断なく、準備をしておく必要があるため、常に「自己想起」を継続することを促がします。

グルジェフがそう語ったわけではありませんが、この「ストップ・エクササイズ」は、スーフィーの行に由来します。
一般に、スーフィーの中では、聖者のアッタールに結び付けられているエクササイズです。


<ムーヴメンツ>

「ムーヴメンツ」は、体操であり、舞踏です。
「ワーク」は、「ムーヴメンツ」はその中心となるものです。

「ムーヴメンツ」のレパートリーは200を超え、様々なタイプがあります。
中央アジアの秘教的スクールで行われていたものがもとになっているとされますが、その起源は不明です。

「ムーヴメンツ」では、手・足・頭などの身体の各部分を、別々のリズム、パタンで動かすことが一つの大きな特徴です。
その動きは、日常にはない動きでなので、思考・感情・動作の習慣的なつながりを立ち切ることになりますし、常に全体を意識する必要があります。

そして、肉体だけでなく、思考、感情、肉体を同時に意図的に働かせるものです。
体の感覚、そして、感情、頭によるリズムのカウントの3つを同時に意識します。

また、「ムーヴメンツ」は、様々に対立する力があり、その両方を意識して、緊張を手放し、動的な均衡状態でいる必要があります。

つまり、「ムーヴメンツ」は、「自己想起」が必要となり、それを促すものです。

「ムーヴメンツ」には、「エニアグラム(別ページ参照)」の幾何学的パタンを反映しているものもあります。
また、「オクターブの法則」からの意図的な「逸脱」が挿入されていて、それによって覚醒させる作用があります。
「エニアグラム」のソの「インターヴァル」は、この意図的な逸脱であると、解釈する者もいます。




*ムーヴメンツの例

 
*映画「注目すべき人々との出会い」の中のムーヴメンツ

グルジェフの宇宙論と人間論

このページでは、「グルジェフの生涯と思想」に続いて、グルジェフの宇宙論と人間論についてまとめます。


<宇宙の階層と法則数>

グルジェフによれば、宇宙は「絶対」から流出論的に、階層的に、順次、創造されます。
そして、その全体の連鎖を、「創造の光」と呼びます。

各階層にはそれぞれに法則数があり、下位の階層ほど、多くなります。
その階層と法則数は、下記の通りです。

(階層)(法則数)
・絶対 :1
・全宇宙:3
・全太陽:6
・太陽 :12
・全惑星:24
・地球 :48
・月  :96

全太陽というのは銀河系のことで、全惑星は太陽系の諸惑星のことです。

法則数は、その階層より上の全法則数(ただし、絶対の法則数1除く)に、その階層で生じる3つの法則を加えた数です。
例えば、太陽の法則数は、(3+6)+3=12、となります

各階層の素材である、「物質性」は、上位ほど密度が低く、振動数が高くなっています。

また、絶対は1つの原子からできていますが、全宇宙(法則数3)の原子は、絶対の原子3
つからなり、以下、それぞれの階層の原子は、法救数の原子からなります。

地球の法則数が48ですが、これは、地球にいる人間は48種の機械的法則によって、絶対の意志から隔てられているということを意味します。
もし、自己の内を観察し、これらの法則の半分から自己を解放できれば、24種の法則、つまり、1つ階層を上昇した全惑星界の法則に従うことになります。

逆に、人間が死ぬと、エネルギーの一部を解放して「創造の光」を月に送ります。
魂は月に行き、鉱物の生命の状態で96の法則に従うのです。
グルジェフは、「人間は月の食物である」、「我々の機械的な部分は月に依存している」とも語りました。


<進化>

宇宙の創造には2つの流れがあります。
一つは、上に述べた下降する創造の流れです。

これに対して、上昇し、回帰する流れもあります。
これは、進化でもあります。

1 創造、拡散、下降、分化
2 回帰、進化、上昇、統合   

2は、人間にとっては、高次の意識を成長させた個人が、上昇して戻るプロセスです。

創造主は、エネルギー変換システムを創造して、創造のある段階で、上昇の流れが生まれるようにしました。

進化には、創造主が定めた進み方があります。
普通の人間の機械的な状態は、現在における、その定めた状態なのです。

ですから、グルジェフの説く「第四の道」のような、「隠れた可能性の開発の道は、自然に背き、神に背く道」なのです。

また、グルジェフは、人類の進化は、あるグループの進化を通してのみ可能であるが、今の人類はその指導を受け入れられない状態にある、と言います。
彼はこのグループについて具体的には語りませんでしたが、神智学の「白色同胞団」に似た考え方です。


<3の法則と7の法則>

宇宙には普遍的な法則として、「3の法則」と「7の法則」があります。

「3の法則」は、「能動」、「受動」、「中和」の3法則からなります。

物質性に関しては、その能動的側面を「炭素」、受動的側面を「酸素」、中和的側面を「窒素」、そして、いずれでもないそれ自身の側面を「水素」と呼びます。

そのため、各階層の物質性についても、それをその階層の法則数をつけて「水素12」といった表現をします。


「7の法則」は、「オクターブの法則」とも呼ばれ、普遍的なものとされます。
これは、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドの7音階(西洋のメジャー・スケール)として表現されます。

「オクターブの法則」は、運動、変化の法則であり、宇宙が非連続の振動からなっていることを表します。

ミとファの間、シとドの間の半音の場所は、「インターヴァル」と呼ばれます。

「インターヴァル」では、減速と脱線(進路変更)が起こってしまいます。
ですが、「付加的ショック」が加われば、オクターブは途切れずに進むことができます。

下降するオクターブでの「インターヴァル」は、意志疎通や現実化の困難として現れます。
一方、上昇するオクターブでの「インターヴァル」は、創造、成長の苦しみとして現れます。

「オクターブの法則」は普遍的法則なので、様々なものに多重に存在します。
まず、「創造の光のオクターブ」は、絶対から始まる下降のオクターブです。

・ド :絶対
・シ :全宇宙
・ラ :全太陽
・ソ :太陽
・ファ:全惑星
(インターヴァル:有機生命体)
・ミ :地球
・レ :月

有機生命体は、全惑星(ファ)と地球(ミ)の間の「インターヴァル」にある、力の伝達所としての機械装置です。
下降するエネルギーの中継点であり、人間は高次エネルギーを受け取れる存在です。

また、「創造の光のオクターブ」には、より小さな「従属的なオクターブ」があると考えることもあります。
次のような「太陽に始る下降のオクターブ(側方オクターブ)」もあります。

・ド :全陽
・シ :全惑星
・ラ・ソ・ファ:有機生命体
・ミ :地球
・レ :月


<4つの意識と4つの体>

人間には4つの意識があります。

1 客観的意識
2 自己意識、存在の意識
3 覚醒
4 眠り

3は、普通の起きている時の意識です。

2の「自己意識」は、「自己想起」を行うことで生まれる、行っている時の意識です。
1の「客観的意識」は、世界をあるがままに認識できる意識です。

1、2、修練によって高次センター(後述)の機能が働いて初めて生まれます。


また、人間には4つの階層の体があります。

1 原因体   :意志:主人:全太陽:6
2 メンタル体 :思考:御者:太陽 :122
3 アストラル体:感情:馬 :全惑星:24
4 肉体    :感覚:馬車:地球 :48

それぞれの体の名称は、神智学の言葉を使ったりしますが、グルジェフは、「原因体」を「第四の体」とも呼んでいます。

グルジェフが良く使う「馬車」の喩えでは、肉体が「馬車」、アストラル体(感情)が「馬」、メンタル体(思考)が「御者」、として「第四の体」が「主人」となります。

ですが、グルジェフは、通常の人間には皆、感情や思考、意志は存在しても、体として最初から存在するのは、肉体だけだと言います。
他の体は、修練することによって、順次、獲得されるのです。

これは、神智学や伝統的な秘教の考え方とは異なる、彼の思想の特徴です。

肉体しか持たない場合、感覚→感情→思考という具合に、下位の機能が上位の機能を自動的に生み出します。
ですが、より上位の体を獲得すると、逆に、上位の機能が下位の機能をコントロールして、それらの機能を生み出します。

グルジェフは、「四つの体を持つ人間だけが、本当の意味で「人間」と呼ばれうる」、「第四の体の獲得によって人間は不死性を獲得する」と言います。
「第四の体」は太陽系を超えているので、太陽系の領内では不死なる存在であると言えるのです。

彼は、高次な身体を形成できると、死後、高次の身体から順に肉体から離れていき、その最高次の部分は「絶対の太陽」へと戻り、最高の意識性を帯びたその脳細胞の一部になる、とも語っています。


<人間論の7つのセンター>

人間には、それぞれに固有の機能を持つ7つのセンターがあります。
それらは、大きく、3つの階に分けられます。

・3階:思考センター、高次の思考センター
・2階:感情センター、高次の感情センター
・1階:動作センター、本能センター、性センター

ただし、「高次の思考センター」、「高次の感情センター」は、修練によって初めて、働き始めます。
ちなみに、神話は「高次感情センター」にとどく表現で、象徴は「高次思考センター」にとどく表現だとされます。

また、「動作センター」、「本能センター」、「性センター」はまとめて考えることもできるので、人間は1階から3階の「3つの脳を持つ生き物」とも表現されます。
それぞれの肉体上の源泉は、太陽叢、脊柱、脳の一部に位置しています。

これらの7つのセンターは、3重に「3の法則」に従っていると捉えることができます。
まず、1階の動作・本能・性センターの3つ組が「3の法則」に従っています。
次に、それを一体として、感情・思考センターとの3つ組が「3の法則」に従っています。
最後に、さらにそれを一体として、高次感情・高次思考センターとの3つ組が「3の法則」に従っています。

これらの7つのセンターとは別に、「磁気センター」と呼ばれるものがあります。
これは、秘教的な教えの影響が集積して生まれるもので、人の態度を良い方向性に変えて進ませ、道を探させます。

また逆に、人間の成長を阻害する器官があり、「クンダバッファー」と呼ばれます。
これは、ウソや幻想によって、人間の心理的なショックを和らげ、自分の愚かさを隠す器官です。
道徳も「クンダバッファー」でできているとされます。

「クンダバッファー」は、人間が創造された初期の発達段階の時に、成長より生存が重視されたために、意識を制限して、日常の単調な行動パタンを守る器官として与えられたました。
本当は、「クンダバッファー」はすでに除去されているのですが、まだ影響が残っているのです。

ちなみに、「クンダリニー」について、グルジェフは、空想の力、どのセンターでも働くことができ、人間を現在の状況に留めておくために注入されたものだと言っています。
これらの表現は、「クンダバッファー」とほとんど同じです。


<センターのエネルギー>

人間の各センターは、下記のように、それぞれの階層のエネルギー(水素)で働きます。

水素6 :高次思考センター         …メンタル体
水素12:高次感情センター、性センター   …アストラル体
水素24:動作・本能センター、感情センター …肉体
水素48:思考センター

「第四の体」は、全センターの調和のとれた働きが必要とされます。

「思考センター」のエネルギーが、「本能センター」や「感情センター」より低いこと、「性センター」のエネルギーがそれらより高いことが、特徴的です。

また、思考-高次思考と感情-高次感情が、上下対象の構造になっている点も興味深いところです。
シュタイナーの身体の階層の上下対象の発想に似ています。
後述するように、シュタイナーとは、下位のものを意識することで、それが微細に変容すると考える点でも同じです。

各センターには、本来的なそれぞれの役割の機能があり、それぞれのエネルギーがあります。
ですが、通常の機械的な人間の場合、それらの誤用があり、各センターは分裂した状態になっています。
ですから、各センターに正しいエネルギーで正しい役割の機能を果たさせ、各センターを調和・統合する必要があります。

例えば、「性センター」は、本来のエネルギーである水素12で働く時、他のセンターが受け取ることができない非常に微細は印象という食物を受け取ることができます。
ですが、「クンダバッファー」が「性センター」の機能を妨害し、他のセンターが「性センター」のエネルギーを奪って様々なことを行います。
「性センター」は、逆に、他のセンターの粗悪なエネルギーを使わざるをえなくなります。

思考、感情、本能、動作センターには、肯定的な働きと否定的な働きがあるのですが、「性センター」には、本来、肯定しかありません。
ですが、「性センター」が他のセンターと結びつくと、否定的なもの、例えば、嫉妬が生まれるのです。

「性センター」が正しい形になると、「高次感情センター」のレベルに立ち、他のセンターはこれに従って、自分自身のエネルギーを使って正しく働くことができるようになります。


<食物の変性>

各センターを働かせるために、人間は3種類(3つの階層)の「食物」を取ります。
普通の「食物」と、「空気」と「印象」です。
それぞれの階層(法則数)は下記の通りです。

・水素48 :印象
・水素192:空気
・水素768:普通の食物

人間は、これら「食物」を順次、高次なものに変換し、高次な体を形成していきます。
人間は粗悪な水素を取り入れ、一連の複雑な錬金術的過程を通して、純度の高い水素に変える工場なのです。

ですから、アストラル体は、元をたどれば、肉体と同じ素材、物質から生まれます。
食物は変換され、それが肉体全体に浸透した時、結晶化してアストラル体を形成します。
余剰分があれば、それを使って、さらに上位の体が作られます。

3つの食物の変性は、それぞれに上昇オクターブを持っています。
普通の食物は、ドに始まってミに至った時点で、インターヴァルとなります。
この時、空気を摂取することがショックとなって、さらに変性してきます。

空気も、ドに始まりミに至った時点でインターヴァルとなります。
この時には、印象を摂取することがショックとなって、さらに変性してきます。
ただし、単なる印象ではなく、「自己想起」された印象でないといけません。

さらに、印象を変性して完成させるには、外界からもたらされる否定的感情を変性する第2のショックが必要となります。


<エニアグラム>

「3の法則」と「7の法則」を合わせて表現した図形「エニアグラム」は、円を9分割し、その点を結んだものです。
これは、普遍的シンボルであり、恒久的運動であり、賢者の石にもなるものです。

ちなみに、グルジェフは、「エニアグラム」は重要なので、秘教グループの間で完全に秘密にされてきたと言っています。
実際、グルジェフが公開する以前にも、以降にも、グルジェフの教え以外からは見つかっていません。
ということは、これがグルジェフの独創である可能性も否定できないということです。

「エニアグラム」の各点は、「オクターブの法則」の音階とも対応しています。

9:ド(インターヴァル)
1:レ
2:ミ
3:インターヴァル
4:ファ
5:ソ
6:インターヴァル
7:ラ
8:シ

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点9・6・3が「インターヴァル」であり、それを結んだ三角形は、「3の法則」と「7の法則」を結び付けています。

点9(ド)は、より高次のオクターブとの「インターヴァル」に当たります。

ですが、「エニアグラム」には大きな謎があります。
本来、シとドの間にあるはずの「インターヴァル」が、ソとラの間にあります。
この謎の答えについて、グルジェフは明言せず、自分で考えるように促しました。

ウスペンスキーによれば、食物変性の3つのオクターブにおいて、点3をドとして第2オクターブを始めると、点6はミとファの間のインターヴァルに当たり、また第3オクターブの始まりのドのインターヴァルにも当たるからだと書いています。

また、「エニアグラム」では、シがソに引っ張られるため、「第二のショック」はソの段階から準備が始まり、ソで内向と外向の流れの分岐が生まれるのだと解釈する人もいます。
また、これは法則からの意図的逸脱でもあり、それは「ムーヴメンツ」でも存在するのだと。

グルジェフの生涯と思想

グルジェフは、20世紀の代表的な神秘主義者の一人です。

彼の思想は、東洋の秘教を、当時の西洋人に向けて分かりやすくカスタマイズしたものだと言われています。
ですが、その思想の背景はほとんど明らかにされておらず、独創性の高いものです。

最初に、このページでは、グルジェフの生涯と、彼の思想の核心となる人間=機械論、そして彼の思想の背景について、簡単にまとめます。

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<生涯>

ゲオルギイ・イワノヴィッチ・グルジェフは、コーカサス地方で、カッパドキア出身のギリシャ人の父とアルメニア人の母のもとに生まれました。
生年には諸説があり、1866-77年の間です。

家庭はロシア正教徒であり、彼はロシア軍属大聖堂の司祭長の下で教育を受けました。
そして、黒海とカピス海の間のカーズに移住してそこで育ちましたが、そこは宗教的な坩堝の地でした。

グルジェフの若い頃のことは、「注目すべき人々との出会い」という自伝に書かれていますが、この書には寓話的なフィクションという側面があり、どこまで事実であるか分かりません。

自伝によれば、グルジェフは「真理の探求者たち」という秘教的な知識を探求するグループに入りました。
メンバーは各地の聖地や遺跡を訪れ、各メンバーが様々な知識を得て、それを持ち寄って共有したそうです。
ですが、このグループが実在したかどうかは確認されていません。

ベネットによれば、グルジェフはロシア秘密警察のスパイとしても活動していて、各国への入国が容易で、ブラバツキー夫人も行けなかったチベットにも入国できたそうです。

グルジェフは、教えを求めて各地をめぐり、アフガニスタンのブハラのナクシュバンディー教団(スーフィーのダーヴィッシュ系修道場)を経て、ヒンズークシのサルムング教団(古代バビロニアから続く伝統を継承しているとされる)に至り、そこから大きな影響を受けたそうです。
ですが、サルムング教団が実在することは確認されていません。

グルジェフは、ロシアの宮廷で一時期を暮らし、1912年頃から聖ペテルスブルグとモスクワでグループの指導を始めました。
これ以降の彼の活動に関しては、弟子達などによる客観的な記録があります。

この時期には、神秘学者で神智学協会員でもあったピョートル・ウスペンスキー(1878-1947)や、音楽家のオルガ・ド・ハルトマンらが弟子になりました。
グルジェフの思想を広く知らしめたウスペンスキーによる著作「奇跡を求めて」は、この時期のグルジェフの教えとワークの記録です。

グルジェフは、グループの中で、メンバー達を心理的に追い詰めることを頻繁に行いました。
メンバー同時の対立を煽ったり、わざと人前で恥をかかせたり、嫌なこと、無理なこと、意味のなさそうな作業をやらせたり、弟子に対してまったく正反対の態度を取ったり…
これらは、個々人の欠点を、あるいはその他の何らかのことを自覚させるための、ショック療法的な実験だったのでしょう。
ですが、そのせいで、精神を壊す人間もいたした。

1917年、グルジェフは、弟子達と、ロシア革命から逃れて、チフリスでグループを結成して共同生活を始めました。
ここにはパリからも弟子達のジャンヌ・ド・ザルツマン夫妻らが合流しました。
グルジェフは、ここでムーヴメンツ(神聖舞踏)を教え始め、1919年にはムーヴメンツの公演を行いました。

その後、彼らはコンスタンチノープル、ベルリン、ロンドンを経て、1922年にパリ郊外の館「シャトー・プリュウレ」を買い取り、「人間の調和的発展のための協会」を設立し、以降ここでワークに取り組みました。
ここでは、ロシア人とイギリス人を中心とする70人ほどで共同生活を行いました。

1924年、グルジェフは、36人の弟子とNYへ行き、ムーヴメンツの公演を行いました。
NYでは、ウスペンスキーの知り合いで神智学協会員でもあったA・R・オレージが迎えました。

同年、グルジェフは、大きな交通事故を起こして瀕死の重傷を負いました。
そして、彼は、協会を解散させ、多くの弟子を去らせました。

ウスペンスキーは、もともとグルジェフの人格に疑問をいただていたのですが、このような事故を起こしてしまうグルジェフに対して、より不信をいだくようになりました。
そして、ウスペンスキーは、グルジェフが、彼が伝えようとしている秘教の思想を伝える資格がない人物であると判断しました。
そして、その思想(ウスペンスキーはこれを「システム」と呼ぶ)を、彼と切り離して教え始めました。

ジョン・ベネットは、グルジェフとの関係を断ってウスペンスキーのグループに合流しました。
ですが、後に、ウスペンスキーはベネットが勝手に自分の思想とは異なるものを出版したことで破門し、ベネットはグルジェフの元に戻りました。

オレージも、1929年には、グルジェフの高圧的な態度と金銭の要求から、関係を断ちました。

グルジェフは、事故以来、病床で「全体とすべて」という三部作の著作を構想し、回復してからはこの著作に取り組みました。

1936年、グルジェフはパリ凱旋門近くのアパートに移住しました。
そして、ここで、新しいムーヴメンツを創作し、指導を行いました。

1947年、グルジェフは、世界の弟子(ロンドンのウスペンスキー、ジョン・ベネット、アメリカのオレージの弟子達)をパリに集め、ムーヴメンツを指導し、「ベルゼバブ」の朗読会、「馬鹿への乾杯」という儀式的ワークを行いました。

「馬鹿への乾杯」は、各人が役割と規則を与えられて行うもので、ユーモアと教えを含む、乾杯と会食の儀式です。
馬鹿のタイプによってその愚かさと可能性を、各人のセリフで示します。

1949年、グルジェフは亡くなり、葬儀は、パリのロシア正教会で行われました。


<著作>

グルジェフは、上記「全体とすべて」三部作に関して、「これまで私が偶然学ぶにいたった神秘、すなわち人間の内なる世界に関するこれまで知られていなかった神秘のほとんどすべてを…分かち合いたいと思うのである」、「最低限、その理論だけでも死ぬまでになんとか彼らに伝えなくてはならない」と、最後の著作で書いています。

「ベルセブブが語る孫への話」は、調和的な3つの脳を持つ生物の目から人間を見たという設定のフィクションで、不調和な人間を批判し、伝統的な常識の破壊をテーマとしています。

「注目すべき人々との出会い」は、若い頃の自伝という形式ですが、真理探究者のタイプを描いて、向かう道を指示する、新たな創造のための素材を知らせることをテーマとしています。

最後の「私が存在する時にのみ生は真実である」は、直接、自身の思想とワークについて書いたもので、現実に存在している世界を理解するのを助ける、現実と融合して一体となる可能性を分かち合うことをテーマとしています。
弟子たちへの講演を含み、ワークがなぜうまくいっていないのかの分析も行っています。

ですが、1935年、グルジェフはなぜか執筆を中止し、「私が存在する時にのみ生は真実である」は未完となりました。

グルジェフは、「ベルセブブ…」と「注目すべき…」に関しては、ザルツマンに出版の時期を任せ、「私が存在する…」に関しては、出版の是非も含めて任せて亡くなりました。

また、グルジェフは、1933年に、三部作とは別に、小著「来たるべき善の先駆け」をグループ内に配布しましたが、後にこれを回収して、弟子にも読むなと言っています。

また、著作の他に、講話や対話の記録がいくつが発表されています。


<継承グループ>

1949年、臨終に近づいたグルジェフは、ジャンヌ・ド・ザルツマンを呼んで後を託し、ザルツマン夫妻は、世界中の「グルジェフ・ファウンデーション」の代表を務めました。

ですが、英米の弟子たちの中にはザルツマン夫妻に反発する者もいて、各地で様々なグループが生まれました。

いくつかあげると、例えば、ウスペンスキーの流れでは、その弟子のロバート・S・ド・ロップが、カリフォルニアで「チャーチ・オブ・ザ・アース」を設立しました。

また、ベネットは、1971年、シャーボーンに「生涯教育のための国際学院」を設立しました。
彼が1975年に没した後は、ウエスト・ヴァージニアに「生涯教育のためのクレイモント協会学校」が設立され、活動が引き継がれました。

また、アメリカのオレージの流れでは、ポール・アンダーソン夫妻が、「グルジェフ・ファウンデーション」から分離して、「コンウェイ・グルジェフ・グループ」を設立しました。


<中心となる教え>

グルジェフの教えの核心の一つは、「人間は機械」だということです。
彼は、「人間は機械だ。…自分自身では、一つの考え、一つの行為すら生み出すことはできない」(「奇跡を求めて」)と言っています。

また、彼は、人間の「本質」と「人格」を区別します。
「本質」は生まれながらの自分自身の個性であり、「人格」は社会的に作られたもの、自分の外からやってきたものです。

つまり、普通の人間は、本当の自分自身である「本質」としては主体的には何も行っておらず、習慣的に作られた「人格」で、機械的な反応を繰り返しているだけなのです。

また、人間には、複数の機能の中心(センター)があって、それが分裂していると言います。
この分裂した状態を「自己観察」し、これらを統合することで、真の自己を取り戻すことができます。
センターが統合され、真の自己が見出された状態は、「存在する」と表現され、それを体験し、深める方法は、「自己想起」と呼ばれました。

「自己想起」は、簡単に言えば、外と内に同時に注意を向けて、自分の全体を、あるいは、自覚する自己を自覚する方法です。
これを常時、継続することを目指します。

グルジェフは、自分が説く道は、苦行によって肉体に働きかける「ファキールの道」や、信仰という感情に働きかける「修行僧の道」、知識、精神に働きかける「ヨーギの道」に対して、「第四の道」であると言います。

「第四の道」は、他の道と違って、日常生活の中で歩める道です。
そして、意志を獲得し、同時に肉体、感情、精神の複数の機能に働きかけ、コントロールする道なのです。


<思想の背景>

一般に、グルジェフの教えは、東洋の教えを西洋人に向けてカスタマイズしたものだと言われることが多いようです。
ですが、具体的な背景が何で、どこからがカスタマイズした部分なのか、ほとんど分かっていません。
そのほとんどが、彼の独創である可能性もあります。

一般に、グルジェフの思想の背景は、スーフィズムだと推測されています。
一方、グルジェフ自身、彼の思想が「秘教的キリスト教」であると、述べたこともあります。
ですが、実は、スーフィーのバックボーンに秘教的キリスト教(愛の神秘主義)があって、スーフィー達はそれを意識していたので、矛盾はありません。

また、彼は、自身の最も核となる背景を、ヒンズークシにあるバビロニア時代から続くサルムング教団であるとほのめかしています。
ですが、この教団は見つかっておらず、おそらく存在しないでしょう。

彼は、ワークのメソッドのことを、「ハイダ・ヨガ」と表現したこともあるようです。
「ハイダ」は「即座に」という意味の言葉のようですがですが、他では聞いたことがありません。
今すぐに、「自己想起」して真実なる自己存在になれ、という意味でしょうか?
禅の「頓悟」やゾクチェンが即座に「自己解脱」させるという考え方に似ています。

彼の思想の表現、その宇宙論や物質論、エネルギー論の発想などには、明らかに近代科学の影響が読み取れます。
また、普遍的な法則とされるオクターブの法則のオクターブは、西洋のメジャー・スケールであり、客観的に言えば、これは地域的にも時代的にも限られており、普遍的とは考えられません。

また、彼の教えの多くは、これだと明言できるような、対応する伝統を見つけることはできません。
彼が重視した「エニアグラム」という図も、グルジェフ以前にも以降にも、グルジェフの影響圏以外からは見つかっていません。

「自己想起」は、確かに、仏教の正念正知やヴィパッサナーに似ていますし、禅やゾクチェンの目指すところとも似ています。
思考、感情、本能などを識別する「自己観察」は、「四念処」と似ています。
ですが、これらを行う目的に、方向性の違いがあります。

その一方で、重要なエクササイズである「ストップ・エクササイズ」は、スーフィズムに存在します。
彼の教えの中で、その背景を指摘できる数少ない例です。





*グルジェフの動画での生前の姿